嫌悪は愛情そして愛憎に


気持ち悪い。そんな意味合いを込め軽蔑の眼差しを向けると返ってくるのはそれ同等、いやそれ以上の蔑んだ視線。ああもう何て気分の悪いことでしょう、ノボリは深く溜息をつき未だやって来ない挑戦者を待った。

クダリとノボリは極々普通の双子の兄弟。しかし普通の仲が良く見ていて微笑ましい双子とは違い互いに嫌悪し合っていた。
幼い頃は別にどこにでもいる仲の良い双子だったが、何時頃からか。2人は互いが疎ましくなった。ご飯も一緒、服も一緒、お風呂も寝る時も学校もバトルも。いい加減うんざりで。そんな生活に嫌気がさし先に片割れを拒んだのはクダリだった、ノボリはクダリに「ノボリと居ると疲れる面倒臭い」と言われたが別段傷付いた訳でもなく「そうですか。わたくしもです」と返し、仲良しごっこの日々が終わった。丁度14歳の誕生日を迎えた日のことだった。


それからというもの、次第にお互いを憎み嫌いになり…今では嫌味を爽やかに言い合う仲になった。



そして今(互いに一緒にはなりたくなかったが)サブウェイマスターとなり、シングル、ダブルとバトルの仕方も別れたというのに…。


「なんでマルチで一緒なんですか」
「なんでマルチで一緒なのさ」

「「…………。」」

こんなところまでも一緒だなんて…。ノボリは大きく溜息をつきクダリは舌打をして爪を噛んだ。…仲が良い頃だったら爪は噛んではいけないと注意していたノボリだが今ではもっと噛んで爪がなくなればいいと思う程で。

静かなマルチとレインの車内。お互いに距離を置いて座っているのにも関わらず、いつまで経って来ない挑戦者にノボリの苛立ちも次第に高まり始めた。クダリに至っては爪から血が滴り落ちている。

2人きりという空間に耐え切れずお互いに爆発しそうになった刹那、ドアが静かに開いた。しかし入ってきたその人物を見てノボリとクダリは固まった。


「わー!すっごいそっくり!」
「おや…?どうやら噂は本当だったようですね」

にこにこと締りのない憎たらしい笑顔のクダリにそっくりな男が1人に、口元を緩めず無愛想で強い眼で此方を見るノボリにそっくりな男が1人。ノボリとクダリの前で楽しそうに立っていた。

「何この挑戦者…うぇ、ノボリにそっくりとかきも」
「その言葉そっくりそのままお返しします」


心の底から嫌そうに顔を顰めるクダリにノボリも顔を歪め舌打をする。そんな2人を見て挑戦者である黒と白が驚きの声をあげた。

「え?きみたち仲悪いの?へーかわいそ!」
「こらエメット。失礼ですから止めなさい」
「でも、インゴー!」
「…お話はとりあえずバトルが終わったらでいいでしょう。…さてサブウェイマスターとお見受け致します!是非とも楽しませて下さい」

声を高らかに勝手にバトル宣言をしてインゴはモンスターボールからポケモンを出し、エメットもニヤニヤと怪しく笑いながらモンスターボールを投げた。しかしそれはインゴのように普通に投げて出した訳でなかった。


「!?」

エメットが投げたモンスターボールは何故かノボリに向かい、頬を掠め後ろの手すりに当たり中からポケモンが出てきた。突然飛んできたモンスターボールを間一髪で交わしたノボリは不満気に挑戦者であり憎たらしいクダリにそっくりなエメットを睨み付ける。勿論無言で。隣からは何とも楽しそうに「当たれば良かったのに」と言い制帽を被り直すクダリ。ノボリは2人の白に苛立ちが抑えきれない。


「どういうつもりです!?」
「んー?べっつにー?いやさ!インゴにそっくりなのに反抗的な目してるからつい…」
「………」

にこりと微笑むエメットの顔はこれまたノボリが大嫌いな笑顔にそっくりで。


ノボリはピキリと自分の額に青筋がたつのが感じた。嗚呼もうクダリにそっくりだからこいつも落ちるところまで落ちているのか。そう自己完結をし、静かにボールからポケモンを出しいつも通りの言葉と共に。苛立ちを乗せた。


「わたくしサブウェイマスターのノボリと申します。…片側に控えるのは同じくサブウェイマスターのクダリです。…さて、マルチバトル。お互いの弱点をカバーし合うのか、はたまた圧倒的な攻撃力を見せるのか、どのように戦われるのか楽しみでございますが…あなた様とパートナーとの息がぴたりと合わない限り勝利するのは難しいでしょう。 ではクダリ、何かございましたらどうぞ……気持ち悪いから喋らなくてもいいんですけどね 」
「ルールを守って安全運転!ダイヤを守ってみなさんスマイル!指差し確認、準備オッケー!目指すは勝利!出発進行!!ノボリは一度ぼこぼこにされればいいよ」




互いに悪態を付きつつも目は本気で。2人は目の前の白と黒を睨み付ける。

そんなノボリとクダリを見てエメットは楽しげに微笑む。楽しそうな片割れを見てインゴはへの字の口を更に曲げ眉間に皺を寄せバトルに備えたのだった。






* * * * *





「…しね」
「お前が死んで下さいまし」

本気でないとは言え敗北は敗北。ノボリとクダリはお互いを見ようとはせず小さく苛立ちを吐き出す。日頃仲が悪くてもバトルの時だけなら完璧なノボリとクダリ。しかしそれはいつものことであって、目の前には自分達にそっくりな2人。恐らくそれが調子を狂わせたのだろう。クダリは手袋を外し再び爪を噛み始めた。


「あはは!ボクたち勝っちゃった!」
「……貴方達もう少し仲良くしたら如何です?あとノボリさん、でいいでしょうか?貴方とは少しお話がしたいです」


「「………。」」


お互いに嫌悪感を隠すことなくノボリとクダリは自分達にそっくり過ぎる白黒を見つめ同時に溜息をついた。そしてそれから程なくして聞こえる罵り合いにインゴは溜息をつき。エメットはどこか楽しそうに微笑みノボリとインゴを交互に見据え、乾いた唇を舌で舐めた。