濡烏の想色

誰も見てくれません。わかってます、わたくしは所詮それだけの人間というのも。こんな根暗で地味でぱっとしない・・・真面目さだけが取り得のようなわたくしがクダリと双子というのだけでも奇跡なのです。クダリというのはわたくしの弟で、いつも笑顔で人に好かれ話しやすくコミュニケーションも抜群、スポーツは勿論勉学も努力してこつこつ積み上げるわたくしとは違いパッとこなしてしまう。なんともパーフェクトな弟です。性格も素晴らしくて、誰にでも優しいです。そう、誰にでも。・・・こんな駄目で仕方無い兄にでも。

「ノボリどうしたの?ほら顔色悪いよ?」
「あ・・あり、がとうございます」

ほら、優しい。気が利いて周りから愛されるクダリ。自慢の弟。しかしそれがわたくしには重荷となっているのです。なんと汚らしい、こんなに優しくしてくれる弟が重荷など。そう思ってしまう自分が本当に嫌になります。ですからわたくしは自分が大嫌いです。考えれば考える程沼地に沈んでいくネガティブな思考回路、大好きな弟を時折妬んでしまう汚さ、何とも汚らわしい、おぞましい。何方かお願いです、わたくしを殴って下さい。罵って下さい。そうすれば少しは・・・。

「ノボリ!!」
「・・っ」

「また考えこんでる、駄目。よくない」

全てお見通しなのか。クダリは真剣な瞳でわたくしの汚く淀んだ瞳を見つめてきます。駄目です、そんな汚れてしまう。いけません・・・!!気付けばわたくしは肩に置かれたクダリの手を払い除けていました。突拍子もない行動にクダリは目をぱちぱちと瞬かせてます。ごめんなさいごめんなさい、貴方の為なんです。

「すみません、貴方が汚れてしまいます」

妬ましくも汚い気持ちを抱いてる己に彼が触れるなどと・・!訴えるも弟は瞬き一つもせず、見つめ返してくる。

「汚れない。それにノボリは綺麗だよ。すっごくきれい。ぼく知ってる、今まで会った人の中でノボリが一番きれい」
「違います・・・わたくしは汚いです。クダリお願いですからそのような不釣合いな言葉言わないで下さいまし」

目の奥がじんわりと熱を持ち始めました。ああこれはいけない。彼の前で泣くなんて。余計な心配を掛けさせてしまう。急いで立ち上がり部屋に戻ろうとしたけれど。

「1人で泣かないで」

腕をつかまれクダリの元へとんぼがえり。だめです、これではクダリが・・!再び腕に力を込め自分より少し厚い胸板を押す。同じ背丈なのに、いつの間にかこんなに差が出てしまったんだろう。わたくしの貧祖な身体は心の生き写しですかね。ぼんやりと頭の片隅で考える。腕の力は抜いてないが、全然動かない胸板に諦めの色が濃くなる。クダリ、どうして・・・。瞳に想いを込め見つめる。目の前には優しくノボリを見つめ続けるクダリ。その瞳はどこか他の色も含んでいて。


「泣くならぼくの胸で泣いて?そしたら抱きしめてあげれる。」


耳に言葉が届き、鼓膜がびりびりと震える。なんて優しいのでしょうか。クダリ、クダリ、大好きです。ノボリの瞳からは自然に薄っすらと涙が零れ落ち、それは頬を伝いクダリの服へと滲み込んでいった。