カロローソ

!多少の流血表現


わからない。

自分の弟が。

何を考えて、  

何を。 

望んで 


こんなことをするのか。





ぷすりと短い音、じわりと滲む赤く滴る血。まただ。そんなことを一瞬思っても体は凄い速さで動き弟の手にあるカッターを取り上げる。

「っ貴方はまたこんな・・!」
「えへへ、ノボリはっやーい」

所謂リストカット。クダリがその行為をするようになってから半月。兄であるノボリの精神は磨り減り始めていた。いやもう磨り減り切りそうになっていた。

ある日突然弟は何気ない顔で自身の手首を切った。それが全てのはじまりだった。当初ノボリは血の気が引く思いで必死に処置しようと試みた。手首から血を流す本人はぱちくりと目を瞬きをし、口を開閉させ唖然と心配気な兄を見つめていた。そしてその時から、今にも泣き出しそうな兄、大好きなノボリにクダリは心を弾ませた。

「これで何回目と・・!もうこれ以上自分を傷つけるのはやめて下さいましっ・・!」
「えーでも自然と切りたくなっちゃうんだよね。・・ねぇノボリなんでそんな泣きそうなの?」
「っ誰のせいだと思って・・・!」

目尻に涙を溜め睨みつけてくる様子はとても愛らしく。クダリは歪んだ思いに駆られていた。綺麗、まさにその一言。ここまで心配してくれる姿を見て愛されていると感じる自分がおかしいのは理解している。だけどこのノボリを見たくてつい手首を切ってしまう、そんなことを言ったらどうなるやら。くすり、とほくそ笑む。ねぇ綺麗なお兄ちゃんぼく悪い子かな?

「綺麗だよノボリ」
「は、ぁ!?こんな時にッバカにしてるんですか・・!」
「ううん、綺麗だから綺麗って言っただけ。ノボリはとっても綺麗、世界で一番綺麗だよ」

ぼく知ってる。

にっこりと笑顔で肯定を訴えるとノボリは呆れたように溜息をつき、手首を優しく撫でた。

「・・・馬鹿」
「うん」
「動かさないで下さいよ、まだ完全に血が止まったわけではないんですから」
「ご飯は?着替えは?お風呂は?トイレは?」
「・・・前みたくわたくしが手伝います」
「セックスは?」
「っ!?何をふざけたことを・・そもそもわたくし達は兄弟ですし、出来ませんよ」

冗談交じりにからかえば愛しい兄は背を向けキッチンへと行ってしまった。リビングに取り残された弟は包帯が巻かれまだ少し熱がある手首を見つめる。自然と笑みが零れ落ちる。とても幸せな気持ちに抱かれている中、目を細めクダリは包帯が巻かれた腕に力を込めた。すると真新しい包帯はすぐに赤く染まった。痛い。傷口が再び大きく口を開けたのがわかる。


「・・!クダ・・っ何してるんです!!」
「あ、ごめん・・・ちょっと今虫飛んでて捕まえようと力入れたらなんか」
「みせてください!」

そしてグッドかバッドか・・・どちらにしても丁度良いタイミングでキッチンから紅茶を持ってきたノボリ。必死の形相でソファに座り腕を赤くさせているクダリに駆け寄る。そしてその心配色に包まれている兄を見つめながら弟は舌なめずりをした。

「ノボリごめんね」
「静かにして下さい!い、痛くないですか?!今包帯を代え・・」

「全部わざと」



「・・・・・・え?」



突然の宣告に包帯に手をかけようとしていたノボリの手がぴたりと停止。その顔色は絶望という文字が似合うほど。今にも崩れ落ちそうだった。信じられないと口をぱくぱくとさせ睫毛が瞳に連動してわなわなと震えていた。あはは、言っちゃった。けらけらと笑いクダリは唇に噛み付いた。本当ばかなノボリ、でも綺麗、とっても綺麗。ぼくの!ぼくだけのノボリ!全部全部態とだったんだよ、知ってた?あー知ってたらこんなに心配してくれないよね。


「ごめんね、ノボリ大好き」


ぼくちょっとおかしいみたい。