sukha:2

これの続き



「それとって」
「はい」
「あっ」
「はい」
「ノボ」
「はい」
「・・・・」
「はいはい、これでしょう?」

何も言わずとも欲しかった物を差し出してくれる兄にクダリはふと思った。

「ノボリっていいお嫁さんになるよね」
「・・は?」

間をおいて首を捻る兄に弟はしまったと、ミスに気付き急いで口を塞ぐも。向かいで息を呑む声に自分が招いた嫌な種に顔を上げる。

「く、クダリそんな・・!お、お嫁さんにもらってくださるなんて・・わたくし!わたくし・・!!」
「・・・・」

やっぱり。という言葉以外にクダリの頭に浮かばなかった。恥ずかしそうに顔を両手で覆う兄に溜息が漏れる。うんざりが半々自分の言動にここまで反応してくれる様子は可愛くて、何だか嬉しく感じてしまう。恥ずかしそうにお嫁さんと呟いている兄を見つめる。つくづく性別を間違えたのではないかと思ってしまう程、ノボリを包むオーラが乙女と化していた。クダリは仕事場と自分に対する兄のギャップの差に僅かながら優越感を感じていた。・・・こんなノボリを知っているのはぼくだけ。みんな真面目で誠実なノボリしか、知らない。そう考えるだけで元より吊り上っている口角は自然とより上に向く。

「ノボリはぼくのお嫁さんになりたいの?」
「そ、それはもちろ・・!! あ、いえ、違っ・・!」
「・・・違うの?」
「あ、あの・・!」

勿論と言い掛けたが恥ずかしくなったのか。ノボリは言いなおして必死に手をばたつかせ否定した。そんな分かり易い拒絶にずきりと心が痛む。嘘でも否定はして欲しくなかったな、ぼそりと呟くと。目の前のノボリの顔色が変わった。恥ずかしそうに染まっていた赤は引き、一瞬で青くなり立ち上がった。

「違います!否定、はその違うんですっ!わたくしは嬉しい、ですがクダリは・・その・・、お嫌でしょう?ですから・・」
「は?」


嫌、?


「で、ですからクダリがその、嫌がるのでわたくし・・」

「嫌がるって何。」

自分でも驚くような低く冷たい声。テーブルの向かいでびくりと揺れる肩をクダリは睨み付けていた。あんなに分かり易い好意を寄せてくれるくせに、何故。嫌がっていたら一緒になんか居ない。手を繋ごうかなんて、お嫁なんか、そんなこと言うはずない。ぐつぐつと腹の中で何かが煮え亘る音。おぞましい感覚に支配されている弟を前に兄は怯え、小さな声で謝罪を繰り返していた。そんな言葉にすら怒りを覚える。


「なんで謝るの」
「だってクダリ怒って・・・」
「何に謝ってるのさ、ノボリはぼくが何に怒ってるのか分かってる?」

クダリの問いに戸惑うノボリ。やっぱり分かってなかったんだねと吐き捨てる。不安げに揺れる瞳を見つめていると目尻に涙が溜まっているのに気付き手を伸ばす。

「ぼく別に嫌なんて思ってないんだけど?」
「え・・」
「嫌だったらノボリに告白されたその時から避けてるよ」

遠まわしに、でも想いはちゃんと込めて。嫌がられるなんて考えないでと伝えるとノボリは耳まで赤くし。目尻から頬に添えられていたクダリの手をやんわりと退かそうと手を動かした。それを掴みクダリは更に続ける。

「ノボリ、大丈夫だよ。」
「あ、のクダリわたくし」
「そりゃあさ、ノボリ時折行き過ぎだなって思う時もあるけど。ぼくはきみを嫌いになんてなれない」

優しい眼差しにノボリの眼からは涙がぽろぽろと零れる。それを掬いクダリは優しく微笑む。最初は戸惑いがあったが、何時しか愛らしい気持ちが沸くようになった。何気ない一言で嬉しそうにはにかみ照れる兄。家族で男、ましてや双子。そんな関係などどうでもよくなる程好きになっていた。それがクダリの素直な気持ち。椅子から腰を上げ近くに寄り耳元でその事実を告げると。ノボリの既に真っ赤だった顔はより赤く染まり、ぷしゅううと音を立てるかのように沈んだ。クダリは胸の奥底深くにあった言葉を伝える為息を吸い込んだ。


「ぼくはノボリが大好きだよ」

だから信じて。



そして震える兄を弟は静かに抱き締め、額にキスをした。