ねぇ気付いた?

ノボリはいつもクダリのことを子供扱いしていた。

だからクダリはそれを逆手に取りノボリが居ないと何も出来ないように振舞った。
朝は寝起きは良い方で、料理もきちんとこなせる。ネクタイも一人で結べるし掃除もやろうと思えばちゃんとできる。帰ったら脱ぎ捨てるコートは本当は皺にさせたくないし、好き嫌いもなかった。

だけど、それ等は全てクダリがノボリを依存させる為に こっそりと隠してきただけの話。

朝は狸寝入りしてノボリが起こしてくれるのを心待ちにし。ノボリが作る料理をよく噛んで味わい、ネクタイを結んでくれる際いつもより近くなる距離に内心胸を弾ませ、文句を言いながらも自分の代わりに部屋を定期的に訪れ掃除してくれるノボリを見ては幸せを咬み締める。脱ぎ捨てられたコートを拾い当たり前のように自分のコートの隣に掛ける後姿を見つめては口角を深く吊り上げては、よくノボリに何で笑っているんだと注意された。特別嫌いなものじゃなくても嫌いだから食べれないとノボリに甘え、そんなクダリに溜息をつきつつも食べてくれる優しいノボリにクダリは愛おしさを感じた。


クダリが幼く振舞うことでノボリは放っておかず、どんな形であろうとも2人はずっと一緒に居られる。依存し依存される、そんな関係がクダリは大好きだった。


だけどノボリがお見合いに行った事でそれ等が全て崩れ去った。


正確に言えば、クダリが崩しただけなのだが。



最初は母に促され会うだけ会ったというノボリに、クダリは兄離れができていない彼好みの弟を必死に演じた。しかしノボリが差し出した母からの手紙を見てクダリの心の奥底に根付いていた物が吹き飛んだ。

なんかもう面倒臭くなっちゃった。



ノボリは結婚など考えていないと言ってるが、クダリの脳内を占めるのはどうすればノボリを女から引き離すかだった。そして出た結論は余りにも簡単で。込み上げる笑いを抑えることなく、クダリは笑った。ノボリの前ではしたことがなかった狂気染みた笑い。


「今まではノボリに嫌われるかと思って控えてたけど、もういいよね!」


そうして戸惑うノボリを余所に高らかに宣言した。



ああ晴れ晴れした、これからは頑張ってノボリを落とさなくちゃ。密かに決意してクダリは笑みを深めた。














すき だいすき あいしてる ぼくのノボリ、


ぜったい てばなして あげない。