ねこ



インゴは猫というものが苦手だ。よって猫ポケモンは無論苦手中の苦手。というより嫌いの部類にはいる。だから普段から猫は嫌いだと公言していた。そのお陰がインゴの猫嫌いは周囲でも有名で。片割れで兄でもあるエメットも苦笑するレベルだ。本来猫好きな彼にとって何故猫がダメか検討もつかなかったが、恐らく自分に似ていて嫌なのでは。そう考えていた。


そんなある日のことだった。


インゴの目の前に1匹の猫が現れたのは。


「・・・」
「・・・・」

互いに無言。睨み合い。まさにポケモンバトルのような一触即発な空気。猫相手に何をしているんだと問われそうだがインゴ自身は至って本気だった。

ー猫の分際でワタシに立ち向かうなんて100年はやい。じりじりと間合いを詰め息を吸う。

「・・・にゃあ」
「にゃあ?」
「っ!」

猫の鳴き真似をしたら首を傾げ返された。苦手部類に入る猫でもその仕草は可愛く目眩がした。しかし惑わされてはいけないと自分の中で誰かが囁き、はっと我に返る。これは苦手な猫、気ままで我侭で傲慢な猫。足を肩幅まで開き猫を見下し腕を組む。

「くっ猫の分際で・・・!」
「にゃー?」
「に"ゃぁっ!」

二度目の仕草には苛立ちが訪れ濁音をつけ返す。猫は多少驚いたように目を丸くさせている。コツと音をさせ威嚇すると申し訳なさそうに猫が見上げてくる。そんな視線を跳ね返しインゴは舌打ちをする。

「そうやって自分が可愛いと思って利用するところが嫌いなんです、早急に立ち去りなさいこの毛玉」

蔑むよう話しかけると猫は寂しそうに鳴きインゴの足元に擦り寄ってきた。堪ったもんじゃない。インゴの口元が引き攣る。

「にゃあにゃあにゃあにゃあ・・!それで何でも通せると思ってるんですか!?」
「でも猫は喋れないから仕方ないよ」
「そんなの分かって・・・!?」

ぐるんと勢い良く振り返れば、自分と口元以外は瓜二つの顔。エメットが楽しげに立っていた。にこにこと微笑を絶やさない兄に弟の喉は自然と鳴った。ま、まさか見られて・・・?いやそんなはずは。インゴは生唾を飲み込み足元に居る猫を見る。猫は首を傾げ相変わらず見上げたままで。

「あはっ・・インゴったら猫苦手なのに懐かれてる」
「ち、違います!エメット誤解です、この毛玉が勝手に・・・」

くすくすと愛しい彼に笑われるのが恥ずかしく。離れなさいと脚を振ろうと上げた刹那。インゴの細く長い脚をエメットが掴み、その黒い脚に引っ付いていた猫を引き剥がした。

「蹴ったらかわいそうだし危ないよ。」

しかし脚をつかまれた所為かバランスを崩しぐらりと揺れる。急いでエメットが支えたが・・・同じ体格の双子の弟を簡単には支えきれず。派手な音をたて2人揃ってその場に崩れた。

「っ痛・・」
「インゴ!大丈夫?!ごめんね・・・!」
「えぇ大丈夫で・・っ?!」

目を開けるとそこにはエメットの心配そうな顔。

「インゴ?」
「あ、う・・・」

余りの近さにインゴは一瞬言葉を失う。しかしすぐ我に返り、慌てて立ち上がりそのまま走り去っていった。その際見えた耳は真っ赤に染まっていた。恐らく恥ずかしくて仕方がなかったのかそれとも嬉しかったのか・・・。それに対し残されたエメットはきょとんとしていたが。無事だったらしい猫の鳴き声を聞いて口角を上げた。

「キミのお陰であんなに可愛いインゴが見れたよ、ありがとう」
「にゃあ?」
「ふふ、インゴがにゃあって・・」

先程まで猫と一方的な言い争いをしていた黒い弟を思い浮かべ、エメットは愛しさを込めてその名を呼んでから、猫を放り投げた。


* * * * *
本当は猫を叩き付けたかったエメットとねこのようなインゴ