sukha

クダリクダリ聞いてくださいクダリ!今日わたくしクダリに似合いそうなネクタイ見つけたんです!ぜ、是非ともつけて下さいまし…絶対似合うと思うのです。それと今日の晩御飯どうします?クダリのお好きなメニュー作りますので何でも言って下さい。そ、それで…今夜はその……一緒に寝、

「ノボリ煩いちょっと黙って」

たった一言去れど一言。白が黒を視線すら送らずそういっただけでノボリは息を荒くした。

「ク、クダリ…!そ、それはOKと!YESと!受け取ってもいいんですか?!わたくしっわたくし……!」
「何がOKでYESなの。勘違いしないで、あと気持ち悪いから頬染めないでくねくねしないで」

恋する乙女のような反応を返す兄に蔑んだ視線を注ぐ。しかしそんな視線すらポジティブに受け取るのが兄、ノボリ。嬉しそうに頬を赤く染めもじもじとしている。何故こうなった、クダリは兄を無視し静かで平和だった頃を思い返す。
ーノボリがクダリに過激で分かり易い好意を寄せ始めたのは1年前のこと。それまでは至って普通の双子の兄。誠実、真面目で優しく、恥ずかしがりや。そんな片割れだった、そうだったのだ。しかしある日、偶然にノボリの自分へに対する想いを知ってしまったクダリ。そこで全ての歯車が狂い出したのだ。

最初は言葉なんて出なかった。足元で泣きながら謝罪する兄が何を言ってるのかも分からなかった。好きでごめんなさい、好きになってごめんなさい。それしか言わずまるで壊れたロボットのようなノボリにクダリは決意した。

「ノボリ、謝らないで。ぼくのこと好きならそのままでいい、今はきみの気持ちに応えられない。でもノボリのこと嫌いになんかなれない。」

だから泣かないで。

無責任な言葉で慰めて何になるのか。自問自答したが嫌いになれないという言葉は本音。不安気に揺れている瞳に優しく話しかけると。ノボリは今までに見たことのないような綺麗に微笑んだ。ーと、まぁ。綺麗な思い出はここまでとして。それから1週間、1ヶ月はクダリはどこか避けられていて。痺れを切らし「ちゃんとぼくをみて」と詰め寄ってからノボリの態度が180度変わったのだった。・・・良いというか、悪いというか。何だかよく分からない方向へと。




「クダリ?どうしたんですか?ハッ!まさか病気・・!?ど、どうしましょう!今の時間病院って・・とりあえず薬箱を・・・!」
「ノボリ違う、落ち着いて。ぼく元気だから」
「元気ってそんな・・じゃあ今夜」
「一緒に寝ないからね」

きっぱりと断りを入れる。悲痛に叫ぶと思いや何故だかノボリは恥ずかしそうに顔に手をやる。その姿は女子そのもので。クダリは呆れ気味に眺める。・・・こうなっても兄は兄、片割れ。嫌いになる要素なんか微塵もない。例え一般から見て好きの形が違っているとしても好意は単純に嬉しい。自分に抱かれたいのか抱きたいのか不明だが、不快に苛まれることはもうない(最初は全力で拒否してきたが)。そこまで考え、ふと疑問を覚えた。ノボリは自分と一体どうなりたいんだろうか。一度思うと聞きたくてうずうずと疼く心が収まらない。黙って我慢するのは性に合わない、クダリは普段と変わらない声色で尋ねた。

「ねぇノボリはぼくとどうなりたいの?」
「は?」
「だからどうなりたいの。抱かれたいの?それとも抱きたいの?」
「え、え・・あ、あの!?わっわたくしは・・・」

ストレートな物言いが仇となったのか。突然の問いにいつも積極的なノボリは差恥に塗れ、口窄む。目を見ようとも視線は下を向いたまま言い難そうに何とか言葉にしようとする。クダリは聞き易いようにと顔を覗きこみ優しく笑いかける。

「そういう目で見ていたわけではなくて、ただ一緒に居たくて、手を繋いだり・・だ、だ、抱き締め合ったり、したいだけなんです・・」

今にも消えそうな声。だけどその言葉は真っ直ぐにクダリを射抜いていた。ーなんだって?一緒に居たい、だけ?そういう目で見てない上あのノボリが抱き締めあいたいだけ、で・・・。クダリは唖然とした。態度だけではなく、考え方までまるで初恋をしている女子のようだ。いじらしくて、愛らしい。まさにそんな言葉がぴったりで。夜の情事のことやら考えていた自分が何だか恥ずかしくなった。

「そっか、じゃあ手繋ぐ?」
「え!?そんな・・え!?嘘・・!」

信じられないといった様子で耳まで赤くなった片割れに自然と口角が上がる。困惑するノボリの手を掴みゆっくりと握ると、口を開閉させ今にも泣きそうな姿に胸が温かくなった。あ、ノボリすごい汗かいてる。傍にいても分かる緊張を見て見ぬふりして。クダリは静かに指を絡めた。


・・・でもくねくねするのはやめて欲しいなぁ