無題

格好いいサブマス、可愛いサブマスは例の如く行方不明です。

小さいころのねつ造がちょろっと出てきます。(苦手でしたらごめんなさい。












―シャンデラと遊んでた。

簡潔に述べられた供述に私は眉を寄せます。
「ほう…、」
その結果がコレですか。

真っ赤になっているクダリの手を見て、私は長い溜め息をつきました。






昼休みという短い時間の中、クダリが切り出した話題に私は昼休みを全て持っていかれる覚悟が出来ました。負傷という事ならトレインも今日は本数を減らせる筈ですから大丈夫でしょう。負傷や体調を崩したりする事、私達は人なのですから致し方ないです。
アンドロイドなら話は違うでしょうけれど。

主人の火傷は自分のせい、だと言わんばかりの切ない鳴き声を上げながら、クダリの周りをふよふよと漂うシャンデラ。特性がほのおのからだの場合、仕方が無いことなのですが。

「シャンデラ、あなたが気にする事は御座いません。意識をしていなかったクダリが悪いのですから」
「うん、ノボリの言う通り!ぼくが悪い。だから自分責めちゃダメ」
よしよし、と二人から頬を撫でられるとシャンデラは渋々返事をしました。

「まったく…、ほら手をお貸しなさい」
「うん…」
十分に冷やされた後で、クダリの冷たく湿っている筈の手を、火傷に障らないように触れようとしましたが、いい所で踏み止まります。
―十分に冷やされた…?
「…クダリ、」
「なぁに?」
首をコテンと傾げる幼い仕草でクダリは続きを促しました。
「何分間冷やしましたか?」

「え?…ん―、ちょちょっと水に浸したぐら「お馬鹿!」
「わぁ、」
私の一喝に、シャンデラは自分が怒られた様にビクリと、クダリは口を大きく開けて驚きました。なんという事でしょうか。
私は急いでクダリの火傷をしていない方の手をひっ掴むと、ずんずんと部屋から出ていきます。

「の、ノボリ、どうしたの?」
意味が解っていないクダリは、いきなり部屋から自分を引き連れ出した私が怒っていると勘違いして、くいくいと服を引っ張ってきました。
「…火傷は最低20分冷やさなければなりません、まぁ…怪我の大小によりますが」
「あ、忘れてた」
私の行動に合点がいったクダリは自分の手を見下ろします。
「痕が残ってしまいますよ」
「手袋で隠れるから大丈夫だよ」
「…私が嫌なんです」

―おそろいがいいじゃないですか。

「ノボリ今なんて」「階段です」「へ!?」
実質そうでしたので私達は階段を降りました、クダリは引かれているので転けるかと思いましたが双子の本領を発揮できたようです。

クダリが私が握っている方の手に力を込めます。温かい熱がじわりと私の手の先から伝わってきました。悪くない?いや、久しいと言うべきでしょうか。
双子ですから、手を繋ぐという行為に慣れていましたが、流石に大人になった今するとは自分でも驚きでした。

「なんか、こういうの久しぶりだね」
えへへ、と嬉しそうに笑う声が後ろ聞こえましたが、私は返事をしませんでした。

「小さい頃。ぼくがケガしたら ノボリ、ぼくの手よく引っ張ってくれた」
「それは貴方が傷を洗おうとしないから…」
「だって遊びたかった」

―手、ひりひりする。
と、クダリは思った。



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ボールを転がしていたか、投げていたかはもう覚えていませんが、家の庭で遊んでいた時です。遠くに行ってしまったボールを取りに行ったクダリが草の上で転けました。私はその時を見たわけではありませんが、ボールを取ってきた彼の膝が赤く滲んでいたのでそれを見て知り、驚いたのをよく覚えております。
しかし、クダリは膝や手の痛みを訴えるどころか笑顔でボールを投げ返そうとしてきたので私は必死でした。
小さい頃でしたから今となっては笑ってしまうような事ですが。

親からバイ菌はどんなに怖い存在か伝えられていた私は、小さい傷ですのにクダリがバイ菌に…殺されてしまう、とでも考えたのでしょうか、だからクダリを守らないといけない、と思った私はクダリの手を引いて傷を洗いに行きました。

クダリはそんな私を知らず、手を振り払おうと必死でした。まだ、あそびたい!と訴えられましても貴方の命を先に優先しないと考えた私は、そんな事を聞かずにお風呂場に直行します。
「ノボリ、ぼく、まだあそびたい!」

「でも…」
「いたくないから、だいじょうふだよ!ね?」

「でも…わたくしっ、クダリがしんじゃうのはイヤです、このままではっバイ菌にころされてしまいます…!」

「えぇ!?」

…た、確かコレを泣いて言った気がしますね。あれ、何でしょうか思い出したくない記憶でした、回想は終わりにしましょう、そうするがいいです!小さい頃というのは本当に何でも信じてしまいますからね…。


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私達はギアステーション職員用の男性トイレに入り、クダリの火傷をした手をお手洗いに近付けると蛇口を捻ります。
勢いよく放たれた水がクダリの火傷をした箇所の少し上から下っていきます。最初に直撃させるのは、少し気が引けましたので。そして、少ししてから直接水を掛けさせました。

「うわ…、ひやっこい」
「そうしないと意味がありません」
「痛くないよ?」
「…痛くなくても、後が酷くなってしまうんです」
私は「そのままにしていなさい」と告げて男性トイレから出ていきました。
残されたクダリは、また首を傾げます。

「…ヒリヒリする」
―あの時の膝みたいに。





駅長室にある、備品の救急箱を私は持ち出して男性トイレに戻ると、クダリが「ノボリ、」と私を呼びます。
「何ですか?」
「まだ水流してなきゃダメ?」
―…まだ十分も経っていないのですが。

「…もう少し我慢してくださいまし」

「暇…だから、かまってほしいな」
真っ直ぐ言われると、私は彼に羞恥心は存在しているのか時々疑わしくなりました。そんな言葉をよく言おうと思いましたね。
「…何をしたらいいか解りませんので、却下です」

「片手が空いてるんだけど」
クダリは片手を掲げ、開いたり閉じたりし始めます。

「…嫌、です」

ふん、と顔を逸らせば、クダリは大きく瞬きをしていた顔を段々イタズラをする子供の笑みに変えていったので私は嫌な予感が致しました。


「ぼく、バイ菌に殺されちゃうのは怖いから、手を繋いでくれると嬉しいな!」

私は勿論、驚愕の表情を羞恥の赤に染めた顔でクダリを見ました。
とっさに指差した先が震えています。それほどに動揺して、恥ずかしかったのです。

「な…貴方、覚え、て…」

「当り前、…あの時のノボリ可愛かったなぁ…。いっぱい泣いちゃってさ、ぼくビックリした」

―よくもまぁ、そんなに覚えていられますね!無駄な記憶力を仕事の方にも当てて欲しいと思ってやみません!

「こ、の野郎…それ以上言わないでくださいまし!」

汚い言葉が、つい口からこぼれてもクダリは表情一つ変えようともしません。というか、むしろ笑みが深くなっているような…。


「うん、わかった。ノボリがそういうなら仕方ない。…ねぇ、ノボリ」



―ぼく、今片手が空いてるんだけどさ、どうする?

もう一度聞かれた言葉に、これ以上心の探られたくない箇所を曝け出されたくない私は、従うしかありませんでした。これは脅しというものだと私は認識しているのですが!


クダリは、手を握ると思いきや、私の腰を引き寄せてクスリと笑います。耳元で笑われるのは、とてもこそばゆいので私は身動ぎをしました。

「今日は火傷でトレインの数も減ったし…、ちょっと遊んじゃおっか、人来ないし」

そういって、蛇口をさらに捻ったクダリに、私の思考は停止します。



ーすみません、水圧を上げた意味ってなんなんでしょうか!!





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こ、れは人様に差し上げるものにふさわしくなさ過ぎましたね!
すみません、此処までお目を通していただけただけで私には土下座物です。


一万打、本当におめでとうございました!!



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林檎好き過ぎる人。様より頂きました。
ありがとうございます・・・!
あの林檎様が一万打を祝って下さった上このような素敵な小説・・・
本当に嬉しいです!これからも支部共々よろしくお願いします^^