ブラウニー事件

『』内は英会話




「ノボリ!」

昼時、ライモンシティ・ギアステーションの車掌室の扉が勢いよく開き、飛び込んできたのは黒い帽子と黒いコートに身を包んだ異国のサブウェイマスターだった。

部屋でパンをかじりながら書類にサインをしていたノボリは驚き、噛んでいたパンが喉に詰まりかけたが辛うじて飲み込んだ。

「イ、インゴ様!如何なされたのですか?」

ノボリは席を立ち荒い息をしているインゴに駆け寄った。背中をさすりながら備え付けのソファーに座らせ、自分もその隣に腰を下ろした。

「あの、ノボリ」
「はい?」

「お…」
「お?」

「お…お、お菓子作りを、手伝って、いた…だけ、たり…」

段々声が小さくなり顔はうつ向いていくインゴに、普段は滅多に笑わぬノボリもクスリと笑ってしまった。

「わ、笑わないでくださいまし!」
「ああ、すみません。それにしてもお菓子作りですか。何故?」
「…昨日、ブラウニーを作ったのでステーションのスタッフにお配りする前にエメットに差し上げたのです」
「お菓子お作りになれるんじゃないですか」
「ですが…あまりお気に召さなかったようで、美味しいよとは仰っていたのですが、言葉とは反対にひと口しか食べてくれなかったのです」
「それはそれは…」

ずーんという効果音を背負っているかのような落ち込み具合の酷いインゴの背中を、ノボリは優しく叩いた。

「なるほど、それでエメット様の好みに合うお菓子作りを手伝って欲しいと」
「はい…」
「そのブラウニー、味見はなされたのですか?」
「人様に差し上げる物ですから、当然です」
「それで?」
「ワタクシはテイスティだと」
「つまり美味しかったということですね?さて…」

どうしたものか、とノボリは軽く首を傾げた。うんうんと二人で原因を考えていたとき、またしても勢いよく扉が開いた。飛び込んできたのは白と白。

『Ingo!!!』

入ってくるなり叫んだのはインゴと同じく異国のサブウェイマスターを務める双子の片割れ、エメットだった。

『Emmet…!』
『Looked for you!!なんで勝手にいなくなっちゃうのさ!』
『Sorry...』
『しかも!なんでノボリんとこに来てくっついてじゃれてんの!』
『そ、それは誤解です!』
『ならなんでこんなとこいるわけ?』
『うっ、それは…help,Nobori...please...』
「ええと…」
「つーかさ、ノボリもなんで優しくしちゃってるわけ?ぼくがバトルしてる間にさ」

ああ、頭が痛くなってきた。ノボリは軽く頭を抱え、ため息をついた。

「ノボリ!」
『インゴ!』

「…うるさいですよ。今はあなた方にお話することはございません」
「ノボリ、ボクはインゴに質問してる」
「インゴ様も今はあなたには話すことができないのですよ」
『Why!?』
『…ご自身の身に覚えがないか、考えてご覧なさい』

最初にエメットを黙らせるために英語を紡いだノボリは、クダリにも軽く睨みを利かせた。

「クダリ、今日あと半日、しばらくエメット様と遊んでなさい」
「はぁ?」
「わたくしは自宅に戻ります」
「ちょ、バトルは?」
「忘れたのですか?本日は午後から車両一斉点検の日ですよ」
「あ。」
「ということですので、私たちは失礼します。クダリ、書類整理はやっておきましたからそれ提出しておいてください。提出しなかった場合減給されますからね」

ノボリは書類の山を指差しながら自分の荷物をまとめると、ぽかんとするインゴの手を引いて車掌室を出ていってしまった。
残されたクダリとエメットはしばらく立ち尽くし、壁に掛けられた時計だけがチクタクと針を進めていた。




「………お宅の黒い子、どんだけノボリになついてるのさ」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ」
「そりゃダブルノボリとかいっぺんに押し倒して両方啼かせたいけど、やっぱり他人だからあんまりノボリに触ってほしくないんだよね」
「ボクのインゴ泣かせたらキミ許さない」
「は?ノボリの部屋に押し掛けたのはインゴでしょ?」
「ソファーに誘ったのはノボリだと思うよ?」

「「あーーイライラする!」」






――― 一方ノボリ宅のキッチンにて、カッターシャツの上からエプロンをつけたノボリは盛大なため息をついていた。ノボリの手にはインゴが書いたブラウニーのレシピメモが握られていた。

「…あなた、これはエメット様も苦笑いになりますよ」
『What?』
「砂糖の量が通常の2.5倍…考えただけでも目眩がします」
眉間の皺を押さえるノボリに、インゴはさらりと言ってのけた。

「ワタクシはこのくらいが甘くておいしいと思っていたのですが」
「…うちのクダリと意見が合いそうですね」

ぐらりと倒れそうになる体をなんとか足で支え、ノボリはお菓子作りの準備をし始めた。

「甘い物もいいですが、あまり体に良くありませんよ。砂糖とカロリー控えめのお菓子も作れるように教えて差し上げます」
「そう言えば、あのあとブラックコーヒー二缶空けていた気がします」
「甘い物が苦手な方にとってこれは相当きついですよ。ですが、あなたが甘い物を好きだと知っていてかつ一生懸命作ってくれたあなたの手前、意見は言えなかったのでしょう」
「エメット…」
「ですから、これからはエメット様に合わせたお菓子も作れるようにしましょう?」
『ノボリ…thank you』

インゴがずいっとノボリに向かって身を乗り出し、ノボリをキッチンと自分で挟むと、普段は帽子で見えないその白い額にキスをした。

「なっ…!?」
「額へのキスは親愛の証。友へのキスです」
「あ、う」
「ありがとうございます、ノボリ」

「ああああーーー!!!!インゴがぼくのノボリ取ったぁーー!!!」

いつの間に帰ってきたのか、しかもなんとタイミングの悪いときにキッチンを覗いたのか、クダリはずんずんとキッチンに入り込みノボリをインゴから引き離した。同じくクダリの後ろにいたエメットもインゴの腕を引き自分の胸に抱き寄せた。

「ぼくのノボリが…インゴに…」
「クダリ、あれは親愛の…」
「親愛ってつまり愛してるってことだよね!?」
「落ち着けこの学なしが」

思わず言葉が乱れてしまったノボリはリセットをするように咳払いをすると、エメットの方に顔を向けた。

「エメット様」
「…なに」
「インゴ様は随分ショックをお受けになったようで、わたくしを訪ねていらしたのですよ」
「どういうこと?」
「それは、ご本人から直接お聞きになってくださいまし」
『…インゴ?』
『エメット、実は…』





ブラウニー事件

「できましたノボリ!」
「ブラボー!やはりお上手ですね。さ、お茶とコーヒーも入りましたし、リビングに運びましょうか」

エメット、今度は大丈夫ですよ!







「インノボが仲良くて苛々するエメクダ」

エダオ様へ
リクエストの苛々エメクダを書けたかどうか不安です…が、精一杯書かせて頂きました!ご期待に添えましたでしょうか…!(□`;)はわわ
最後になりましたが、改めて1000ヒットおめでとうございます!これからもよろしくお願いします(∀`*)


* * * * *

こう様より頂きました。
本当にありがとうございました・・・!
インノボが凄いかわいくて涙がとまらないです(*T▽T*)