甘い甘いぼくの君

「それ食べたい」
「……え?」

口に入るまであと数センチのところで掛かった声。ノボリは持っていたシュークリームを皿に戻す。

「…えっと、これをですか?」
「うん、ちょうだい!」

控えめに聞き返せば1秒もせず返って来る元気な返事。そんな弟のキラキラとした目にノボリはどうしたものかと眉を八の字にし困り果てた。今自分が食べようとしているのはただのシュークリーム。同僚が余ったからといって分けてくれたもの。2個ずつもらったがクダリは既に完食。ここは一口だけなら…とあげるべきか、それとも甘やかしてはいけないものか…。元来ブラコンなノボリはそんな悩みの迷路から抜け出せずにいた。クダリはにこにこと太陽のような笑顔でシュークリームとノボリを見続けていて。その視線に……つい手が伸びる。

「一口だけならいいですよ」
「ほんと!?やった!」

また甘やかしてしまった…。後悔するも目の前で花を飛ばす弟にノボリの心は癒された。もうブラコンでも何でもいいじゃないですか、クダリが喜んでくださっているのですから!誰に言うわけでもなく自己完結し、シュークリームがのった皿を差し出す。しかし太陽だった笑顔にうっすらと暗い影。どうしたのだろうか。首を捻っているとクダリは言った。

「ぼくノボリの手から食べたい」

だからあーんして?的確に羞恥心を抉るであろう言葉にノボリは唖然とした。賺さずそんなことは恥ずかしいからできないと否定しても弟のかわいらしいオネダリは続く。しかし拒むごとにおねだりの勢いは増していき、最終的には耳朶をかじられついにノボリが折れた。この時点で既にノボリの顔は熟れた苺のようで。…そんな兄を弟が美味しそうと心中で呟いたのは本人以外知らない事実。そんなことは知らずにノボリはシューのクリームがこぼれないよう一口サイズに千切る。

「あの、その……で、では…あ、あーん」

右手でシュークリームを持ち左手でクリームが落ちないよう添える。しかし恥ずかしさの余りノボリはクダリを見れず視線は宙を彷徨う。そんな愛らしい反応にクダリの中で悪戯心がめきめきと音を立て成長する。


そして大きく口を開け、噛み付いた。





「ひっ!?」




ノボリの指まで。

シュークリームは適度な大きさで千切られていて一口で見事全部おさまった。しかしクダリはそれだけでは飽き足らずノボリの指までしゃぶった。クリームと共に。これには流石のノボリも背けていた目線を戻す。そしてわなわなと震えながら自分の指をおいしそうにしゃぶっているクダリを叱った。

「ふぉふぉひのふひほひひーほ」
「お、おいしくないです!はやく離して下さいましっ!」

第三者が居たら何故言ってることがわかると突っ込みたくなるが、そこは双子。分からない筈がない。ノボリはくすぐったい感覚と差恥に顔を赤面させ怒り狂った蛸のように空いている左手でクダリの肩を押しやる。なんとも愛らしい抵抗。クダリは舐めていた甘い指にそっと歯を立てる。すると肩が大きく揺れノボリの目尻がじんわりと赤くなった。

「っや、クダリッ」
「んー?」

本格的に泣かれる前にちゅぽんっと厭らしい音を立て指から離れる。その音が余計恥ずかしかったのかノボリは口をぱくぱくと開閉させバカ!とクダリを叩く。痛いけどかわいいからいいや。呑気にそんなこと考えながらクダリは口の中に未だ残っている甘味を舌で味わう。

「ノボリ」
「なんですかこの変態助平」
「ひっどーい。まぁご馳走様!」

さっき食べたのよりスーパーブラボーな味だったよ!笑顔でそう言うクダリの鳩尾に恥ずかしさと怒りに塗れた拳が入った。

「な、なにが…!このっ!」
「ぐっ……ちょっと待ってストップ!ノボリぼくしんじゃう!」

お腹を抱え蹲る弟にノボリは今度やったら貴方の自慢の息子を噛み千切りますから!と不穏な捨て台詞を吐きその場を後にした。残されたクダリは痛みに苦しんでいたがそれはいつの間にか悶えに変わっていた。

「ノボリがしゃぶってくれるなんて、しあわ」
「煩い!聞こえてますよ!この変態!!この口は黙れないんですかっ!?」

何をしても揚げ足を取られる情けなさに耐え切れなくなったのか。戻ってきたノボリはクダリの頬を掴んで左右に引っ張った。新たな痛みにクダリは手を掴み止めようと試みる。しかし顔が先ほどより接近していることに気付き力を抜いた。突然抵抗をしなくなった弟に多少疑問を覚えるが今がチャンス。ノボリが更に攻撃を仕掛けようとした瞬間。いつの間にか後頭部にまわされた手に目の前に同じ顔。そして感じる口内に入ってくる舌の感触。深く口付けられノボリは必死に逃げようと舌を動かす。しかしそれは意図も簡単に絡め取られた。

「んぅッんんっ」
「っは、ノボリ…」

頬を掴んでいた手を離し今度は肩を掴み押し返そうと力を込めYシャツを握る。しかしクダリがそんなことを許す筈なく。より深く口付け、厭らしい音を響かせる。くちゅりと音をさせる度Yシャツを握る手が震えノボリの固く閉じられた目からは薄ら涙が滲む。ちょっぴり素直じゃないけどとっても真っ直ぐで可愛いノボリ、なんて綺麗なんだろう。そんな片割れを脳裏に焼き付け、自身の口内に残る甘さを分け与えるかのように。クダリはゆっくりと口付けを続行したのだった。







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「食べ物をあーんさせようとしたら指甘噛みされて舐められるノボリさん」
です。
支部にて林檎様に捧げた物です。
本当におめでとう御座います……!