第四話 絶対絶命

モクバはこの状況を驚くほど冷静に理解していた。

(ドラマとかで見たことあるけど、これって『カツアゲ』っていうんだよな?)

この日は市場調査で童実野町のおもちゃ屋さんに来ていた関係で、珍しく護衛を
つけていなかっのだ。

路地裏に半ば引きずられるように連れられたモクバの周りを人相の悪い高校生くらいの
少年が二人囲んでいた。

「なぁ。お前、海馬コーポレーションの副社長だろぉ?金持ってるよなぁ?」

「今は持ってないぜぃ。」

きわめて冷静にモクバは相手の顔を見た。

「持ってないはずないだろぉ?ほらぁ!」

少年の一人がいらついたのかモクバの胸倉をつかみ壁へ押し付けた。

さすがのモクバも恐怖を感じたのか身をすくめた。

「な!ないって言ってるだろっ?」

「ほらぁ!ないわけないだろ〜?」

モクバの胸倉を掴んでいる少年の横の少年が、ズボンのポケットからナイフを
ちらつかせた。

万事休す。か、と思った時。

 「あーっ!いたいた!どこに行ってたのよ!」

路地裏に通づるメインストリートからモクバ達に向かって拍子抜けするほど明るい
声が響いた。

モクバも少年達もそちらの方を見た。

そこには不自然なまでに艶があり腰まである長い黒髪に、見ていると

吸い込まれそうな茶色の瞳に白い肌均整がとれた長身。赤いキャミソールにピンクのカ
シュクールシャツ

白いパンツの誰が見ても「美しい」と評するだろう10代か20代だろうか?女がそこには
立っていた。

ナイフを持っている少年が怪訝に感じたのか女に近づいた。

「なんなんだぁ?てめぇは?」

「従弟がお世話になりました」

女はにっこりと優雅に少年に微笑みかけた。その微笑を見て少年は舐めるように女を
見た。

モクバはそんな二人を見て危険を感じたのか震える声で

「ねっ、姉様!いっ行こうぜっ!」

少年達は互いに目配せをした。

モクバの胸倉を掴んでいる少年がいやらしい声色で女にこう言った。

「このガキは帰してやるけど…お前、俺達の相手しろよ?」

モクバも予想していなったわけでもない。この女が自分を助けたあとに
どうなるかと。

モクバは今まで恐怖で動かなかった足で勇気を出して自らの胸倉を掴んでいる
少年のわき腹をけった。

少年はモクバの胸倉を離し、痛みでその場にうずくまった。

その隙をついて、女の手を引き路地裏からメインストリートに逃げ出した。

 「なんで俺を助けたんだ!?」

モクバは走りながら女に聞いた。

「あのままいくと、君、殴られてたわ」

「俺は大体兄様から対処の仕方を教わっているんだぜぃ!どうってこと」

「でも、怖がっていたわ。あのまま見捨てる方が身勝手よ」

そんなやり取りをしている間にも、ナイフを持った少年がポケットからナイフを取り出し
すさまじい形相で二人を追いかけてきた。

朝でメインストリートには人が沢山いるにも関わらず、皆自分がかわいいのだろう。

ナイフを持った少年を止めることもなく、むしろ少年を避けるかの様に歩道が真っ二つに
割れていた。

女は後ろを振り向き追ってくる少年を確認した。

「まだ、追ってくる!」

「あたりま…うわっ…!」

歩道の段差で躓き転んでしまった、女の手を離さなかったためにモクバに覆いかぶさる
形で女も一緒に転んでしまった。

(や…やばいぜぃ…このままじゃ二人とも…)

「やっと追いついたぁ…」

嫌な声が聞こえた。

モクバと女は起き上がるのに手間取ってしまったために、もう逃げられない格好になって
しまった。

「このクソガキ!舐めたマネしやがってぇ!」

少年はナイフを振り下ろそうとしている。女はモクバを抱き寄せ、少年に背を向けて
かばう格好になっている。

「死ねぇ!」

少年はナイフを振り下ろした。モクバも女も目をつぶった。が、ナイフが女にナイフが
刺さった感触も血の感触もなかったどころか誰かが少年を殴る音すら聞こえた。

モクバは恐る恐る少年の方をみた。そこには地面に崩れ落ちている少年と見慣れた兄の後
姿があった。

「兄様!」

女はモクバを離した。

「兄様!商談は!?」

モクバは瀬人の元に駆け寄った。

「磯野からお前が裏路地に入ったと情報をうけた。まさかと思い、商談を切り上げて来
た」

女は後ろを振り向いた。瀬人を見て驚いたのかを目を丸くした。

瀬人もなぜか驚いた表情をしたが、すぐに表情を戻した。

「あ…あなたは…!君この人の弟だったの!?」

「そうだぜぃ!俺は海馬瀬人の弟なんだぜぃ!」

モクバは少し得意げな風に言ってまだ地面に座っている女に手をさしのべた。

女は手をとり立ち上がった。

「弟が世話になった」

「世話なんて…」

なにか言いようのない暖かさが瀬人と女の間に流れていた。

瀬人は女の足を見た。

「怪我をしている。社に来て治療してやる」

「ただ擦りむいただけだから大丈夫よ」

女は笑顔で「大丈夫」と言う様に瀬人を見た。

瀬人はまた、なぜかその笑顔をいとおしげに目を細めて見た。

女はふと頭上にある時計を見た。

「いけない!もうこんな時間、講義に遅れるわ!君が無事でよかったわ。じゃあね」

足早に女はその場から立ち去った。

瀬人とモクバは走って行く女を見送るように見ていた。

モクバはふと、さっきまで女がいた場所を見た。そこには、半透明の白いケースが落ちて
いた。

「兄様これ。忘れ物かなぁ」

モクバはケースを取り、瀬人に渡した。瀬人はケースを開け、中の資料と思われる本を
見た。

「これは俺が預かる。時機にとりに来るだろう」

瀬人は資料に書かれた名前を見た。

そこには{童実野大学1年 望月燐藤}と書かれていた。

時刻は丁度、正午を指していた。

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