第一話 朝の童実野町
朝、武藤遊戯は幸せなひととき(二度寝)を享受していた。
「遊戯!いつまで寝ているの?杏子ちゃん来ているわよ?」
階下から、起床を促す遊戯の母親の怒鳴り声が聞こえる。
「ん…」
遊戯はベッドサイドにある目覚まし時計に手を伸ばした。時刻は午前8時を指していた。
「うっ!うわぁああっ!」
遊戯は舞台役者も顔負けの早さで学ランに着替える。
「あっ!あとはっ!」
ベッドの淵にかけて「あった」はずの「モノ」に手を伸ばしたが、何もない。
(ああ…そっか…)
無理もない。数ヶ月とは言え数々の困難を「もう一人の自分」と乗り越えて来たのだ。
だからもう、千年パズルは心臓と同じ意味を持っていたのだ。
「ああっと!ヤバイ!」
遊戯は感傷を振り切るように目覚まし時計に目をやり、杏子が待つ階下へ急いだ。
時刻は午前8時10分をさしていた。
「もう!遊戯遅い!20分待ったわよ」
「ごめん…。じいちゃんが昨日新しいゲーム入荷してさ。夢中になっちゃったんだ…」
遊戯は申し訳ないと言った表情で杏子を見た。
「それはそうと…なんか私達のクラスに転校生が来るみたいよ?」
「そうなんだぁ。なんで知ってるの?」
「城之内がメールで教えてくれたの」
杏子はブレザーのポケットから携帯を取り出しメールを見せた。
〈件名¨大ニュース!
本文¨俺たちのクラスに転校生が来るぜ!職員室で見た!どうやら女の子!スッゲー
カワイイ☆〉
と携帯が映し出していた。興奮してメールを作成している城之内の様子が文章から伝わっ
たのか、遊戯は苦笑した。
「だから早く行きましょ?転校生に遅刻した
姿見せたらみっともないでしょ?」
言葉を言い終えないうちに杏子は走り出した。
「まってよぉ〜っ?」
新たなる友情への期待を胸に抱き遊戯は、若干転びかけながら杏子を追っていく。
歩道にある時計は午前8時15分をさしていた。
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