ヒーローの条件


今日返ってきた数学のテストが9点だった。うわあ、すごい、一桁は初めてだ!とクラス最下位というある意味栄誉な称号を受け、喜んだらキョン君に呆れられた。だって数字とか見ると眠くなるんだもんなあ。んあ、考えてたらまたあたま痛くなってきた。頭わるくない神裂とかそれは最早綾じゃねえとかあのアホの谷口に言われるくらい頭が悪いのがわたしこと綾ちゃんのポリシーなのである。あ、間違えた。バイタリティだった。馬鹿さ加減を信条にしてどうする。あれ、バイタリティで良かったんだっけ?てゆうかバイタリティってどういう意味?


11月に入った途端急に横っ風が冷たくなった。寒い寒い寒い。思わずマフラーを買ってこたつを出して床暖房をつけてしまったくらい寒い。うん、自分でもちょっと気が早すぎたと思った。微風のあたる肌の面積を減らそうと真っ白なマフラーを頬までずり上げながら、隣を歩いていた古泉くんの季節とか関係のないさわやかスマイルな横顔ちらりと盗み見た。

「あなたはどう思うのですか。神宮寺さん」

突然話を振られた。私達何の話してたっけ。

「そうだなぁ、私的には古泉くんは頭の良い年上のおねーさんが好きそう」
「それはまた随分な偏見ですよ。僕は料理上手な女性の方が好きですね。そして、今までしていた話を聞いていなかったからといって返答に窮するような発言は如何なものかと」
「つまり頭が良くて年上で料理上手なセクシーおねーさんといけない一樹くん!ってことか。古泉くんたら不潔よ!」
「昨日は就寝前にどんな本を読んだんですか」
「年上おねーさんと同棲生活してたら幼馴染が来て修羅場になる感じの」

たまに人間じゃなくなる超能力者君は、今度僕が何か貸しましょう、と苦笑した。やだよどうせミステリーばっかじゃん古泉くん。

「キョン君の好みは言わずもがなだけど年上ロリ巨乳はやっぱり男のロマンなのかな?」
「朝比奈さんは魅力的な女性だと思いますよ」
「私は?」
「神宮寺さんも十二分に魅力的かと」
「表現が全部一緒だね。関心無いなあ」
「関心ならありますよ。あなたはとても興味深いです」
「普通の一ジョシコーセーに興味深い要素なんて一つもないよ。何がそんなに気になるの?」
「そうですね」きれいな指先を顎元に添えて考えるポージング。


「例えば、どうして頭が悪い振りをしているのか、とか」


一台のフォルクスワーゲンが横を通り過ぎた。その拍子に右肩から滑ったマフラーをかけ直す。古泉くんは無害にしかみえない笑顔のまま、間を置いた。 ……うわあ、意外にエスいなあ、この人。こういう男が女を泣かすんだよ。


「例えばどうしてあなたと志を同じくする仲間と違い攻撃を仕掛けてこないのか、あなたにとって動いて欲しくない筈のキョンくんを手助けしているのか。…………どうして大嫌いな種類の人間に自分から関わろうとするのか、でしょうか」


縷々と流れるような言葉の羅列。
心の内側をなぞるようにそっと優しく、けれど極めて残酷に。

「……へえ、そうなんだ。で、古泉くんの話はなんだったっけ?」
「涼宮さんの話ですよ」

飽きもせず涼宮さん涼宮さん涼宮さん。涼宮さん専属イエスマンな彼に言ってもしょうがないことだけど、たまには涼宮さんに反抗してみたらいいのに。涼宮さんに色んな物を与えられた私達はその代償をも強いられいてる。無論彼女のせいではない。それが世界の条理であり不条理、作為なのかと云われれば否不作為であり、故意かと云われれば過失なのである。偶然の産物。だからって世界の終わりがみたいとか世界を壊したいだとか、そんな中学生特有の病気みたいなことは言わない。だってそんなこと出来る訳がないから。彼女以外にはね。

「神宮寺さん。僕は」

僕よりもあなたの事に興味がありますとか言うけど、私からしたら私の事より古泉くんの事に興味があるな。私と彼は、決して交わらない人間だ。位置している座標そのものが違いすぎる。故に互いが互いを監視し合い、警戒し合い、牽制し合う、どこまでいっても平行線な関係。

「キョン君は長門さんが守ってくれるから大丈夫だよ」

細くてきれいな、それでいてちゃんと男の人の指が頬に添えられた。あたたかくてきもちいい。私にかまをかけたりするのも、SOS団の皆の身の安全を案じての事だろう。ねえ、それってどこまでが嘘でどこからが本当なのかなあ?


「…古泉くんは私が殺しちゃうかもしれないけどね」


ヒーローの条件
(恋心未満興味以上)

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