心臓に食べられる


あ、足立さん!と通常喋る時よりもワントーンあげて僕の名を呼ぶのは、もう聞き慣れたそれだ。スクールバックを肩から提げた、制服姿でこちらへ走って来る夏目は、変わらぬ笑みを携えている。まさか稲葉署の前で会うとは思わず、少々面食らったが、おそらく堂島さんに用事でもあるのだろうと勝手に自己完結する。話を聞くとやはりというか、彼女は堂島さんの忘れ物とやらを届けに来たらしい。


「堂島さんから言われて来たのかい?」
「そういう訳じゃないんですけど…帰ったら机の上にあって、無かったら困るかなあって」
「そっかー…堂島さんならまだ戻って来てないから、良かったら中で待ってなよ」
「あ、はい。ありがとうございます。足立さんは…休憩中ですか?」
「…ハハ…うん、まあね。そんなとこだよ」


実際のところは調書をまとめなくてはならなかったのだが、別に急ぐ必要もないだろう。自分だけにしか出来ない仕事でもあるまいし。署内へ入り、興味深そうに視線を彷徨わせながら、従順に後ろをついてくる綾を、ひとまず空いていた部屋へ案内する。小さなテレビと簡素な鉄製の机に椅子があるだけの質素なものである。


「ごめんねーこんなところしか空いてなくて」
「いえ、そんなこと…むしろ面白いくらいですよ」
「ははは…そう言ってくれると嬉しいよ。綾ちゃんは…コーヒーは平気だっけ?」
「あ、はい。すきです。ありがとうございます」


にこっと笑って缶コーヒーを受け取る。そんなに珍しいものでもないだろうに、狭い室内をきょろきょろと見回して、「初めて入りましたけど、すごい雰囲気でてますね」とかなんとか頷きながら言う。セーラー服のスカートから覗く足は生白く、そのコントラストがいつだったかの女子高生を思い起こさせた。…そういえば、この部屋だったか。


「足立さん?」
「うん?」


いつの間にか接近していた綾が、訝しげに僕を見上げる。この、真っ直ぐに真実を見ようとする瞳がどうも気に入らなかった。


「もしかして仕事ばっかしてあんまり寝てないんじゃないですか?顔色がわる、」
「…ねぇ、綾ちゃん」


どうしてだろう、無性にイライラする。世界は変えられるとでも言いたげな澄んだ眼差しが、この気づかわしげな声音が、欲情を誘う体が、全てが。子供ならではの偽善的な発言にも…虫唾が走る。世の中の酸いも甘いも何もわかってない子供が、エラそうに。


「…そんな簡単に人を信用したらだめだってば」
「…え?」


こちらに伸びて来た腕を掴んで、そのまま机の上に体ごと組み敷いた。
鈍い音を立てて鉄製の机が人一人分の重みを受け止めると同時に、彼女の手から零れ落ちた缶コーヒーが床を転がってゆく。
心配そうな眼差しから一転、驚きに見開かれるそれが愉快だった。おそらく彼女と入って来たところは誰にも見られていない。稲葉署は万年人手不足であり、他の人間に見られる聞かれるという心配も余りせずに済むのだ。


「君がいくら強くてもさ、男と女の差は覆せない。わかる?」
「あ、足立さ、」
「…口で言ってもわかんないんじゃ、しょうがないかな」


机に押し付けたまま唇を奪うと、綾は今度こそ抵抗を始めた。薄っすらと涙が混じる瞳が煽情的で、ちょっと怖がらせるつもりだっただけなのに、止まらなくなりそうだった。…ぐちゃぐちゃに犯してやりたい。


「や、やめてくださ…、足立さ、」
「…あ?ああ、ちょっと大人しくしててよ…大丈夫、すぐ済むからさ」
「…やっ、」


ポケットから無造作に取り出した手錠で、暴れる両腕を後ろで拘束する。


「…あんまり暴れると痕ついちゃうから、大人しくしてた方がいいよ」


しかしそんな忠告など全く聞かず、綾は何とか手錠を外そうと両手を無理矢理動かす。あーあ、せっかく忠告してやったのに。


「こんなことっ、やめ…!」
「静かにしててよ」


喋れないよう、今度は深く口づけながら、セーラー服のスカーフを解く。続けて真っ白なカーディガンのボタンを外しつつ、オーバーニーソックスの布地から出た剥き出しのふとももに触れた。軽く爪を立てると、綾が小さく呻く。


「…ん…痛いのが好き?」
「っな、」


ボタンを全て外し終わり、直接服の下へ手を差し入れてブラジャーのホックを外し、発育の良い胸を揉みしだくと綾が奥歯を噛むのがわかる。それがどこか可笑しくて柔らかい素肌を指先でなぞりつつ、強さを調節しながら突起をつまむ。涙目で、きっ、と睨みつけてくる綾に背筋がぞくぞくした。こういう表情を見るのは初めてだけれど、悪くないな。


「…、いや、っ…」
「綾ちゃんは、こういう場所でするの好きなのかな」
「なに、が」
「…ちょっと濡れてるよ、ここ」


下着の中へ入れた指で割れ目をそっと撫でると、彼女の腰が震える。それでも性急に事を運んでいるので十分に潤っているという訳ではなく、もう少し時間をかけて愛撫する。耳たぶを甘噛みしつつ、肉芽を擦ってやると、押し殺した声で綾が喘いだ。


「…ん、ふ、あだちさ…なんで、こんなこと…っ」
「…何で?君に、ムカついたから…かな…ねえ、腰、浮かせて?」


いやいや、とばかりに首を振る綾に溜息を吐き、首筋に噛み付いて体がはねた隙に下着を脱がせて、するりと指を入れるといやらしい水音が耳についた。


「別に声上げたかったらあげてもいいけど…こんな恥ずかしい格好、見られて困るのは綾ちゃんの方だと思うよ?」
「……、ん、く…っ」


耳元でそう囁きながら、指の本数を増やすと、綾が小さく悲鳴をあげる。それをいたわるように優しくキスすると、どうして、という眼で訴えかけてくる。心臓の鼓動がどんどん大きくなって、そのうち爆発するのかもしれないと思えるくらいだった。理由?理由なんて、そんなの。


「ちょっと痛いかもしれないけど…ごめんね」
「っん…、え…?」


ベルトのバックルを外し、いきり立ったそれを取り出すと、綾もこれからされる事を悟ったのかまたしても抵抗を始める。しかし心身共にうちのめされた彼女の抵抗などたかが知れていて、むしろこちらを煽る要素にしかならなかった。 …ああ、こんなとこ誰かに見られたら今度こそほんとにクビだよなあ。現職警官が高校生に強制わいせつ、の見出しが脳裏をよぎってどこか笑えた。



「…い…や、あだちさ…っぁ、い、た」
「…ん…はぁ…ちゃんと…僕の、味わってね…綾ちゃん」
「…っ」



半分くらいまでいれて、彼女の反応を窺う。大分締め付けがキツイが、熱くてどろどろしたそこは気持ちよくて溶けてしまいそうだった。
綾は生理的なものか感情的なものかどうかはわからないが、その瞳から涙を零して、それでも薄い色は真っ直ぐに僕を射抜いていた。やっぱり、気に入らない。



「…っん、…もうちょっと、力抜いて…きつい…」
「んん…い、やっ、」
「…いやだいやだっ、て言いながら…こんな、締め付けてるんじゃ…まるで説得力無いってば。今の、女子高生ってさ…みんなこんなに…ん、淫乱なの?」
「…っあ、く…ちが…」



熱い中へ、ゆっくりと全部おさめる。まとわりついてくる濡れた秘肉の感触に、すぐにでも達しそうになるのを堪えた。そうして少しずつの抽迭を繰り返すと、引き結んでいたくちびるから甘い声が零れる。ぐちゅぐちゅと卑猥な音が耳を犯して、更なる興奮を煽った。



「…っは…あ、気持ち、いい…ね、綾ちゃん…僕の、おいしい…?」
「っん、あ、やっ、そんな訳、な…、」
「…こんな、おいしそうに…、は、…咥え込んでる、クセに…君がこんなにエッチだったなんて…ショック、だよ」
「…ふ、くぅ…私は…っんぁ、」



彼女を突き上げる度に机が揺れて、誰か来ないかと少し不安が過る。けれど今はこの快楽の行き場をどうにかしたい気持ちの方が勝っていた。


「…っ、く…ね、綾ちゃ…僕、もう、」
「…ふぁ、あ、足立さ…っわ、たし…あ、」
「…はぁ、ん…僕が、なに…?」
「…っ、わたしは……、………」


濡れた瞳が、僕の心を覗くように見て、艶やかなくちびるから彼女が発した言の葉が、心臓をぎゅっと掴んだ。別の生き物のように蠢くそれは、鼓動を打ちすぎて、このまま本当に壊れてしまいそうだ、と思った。…さんざん貶めても、どんなに辱めても、汚しても、きみは。















ばさばさ、と何かが落ちる物音がして飛び起きる。見れば積み上げたファイルの類が床に散乱していて、堂島さんが呆れた声で「おい、足立。何やってんだお前は」と溜息を吐いた。 …まあ、そりゃあ、夢か。


「…あー…」


まるでまだ夢の中であるように、心臓が早鐘を打っている。まさか、夢にまで見るなんて。……これは、本格的に、マズイなあ。コーヒーを片手に書類を繰る堂島さんの横顔をちらりと見遣る。そう、何しろ彼女の傍には堂島さんが居るのだ。この人は変なところでカンが鋭かったりするので、侮れない。それに、この人のことは嫌いでは無いし…まだ捕まる気も、毛頭無いのだ。 …彼女が全て黙っていたとすれば、問題は無いのだけれど。夢の中で彼女が最後に呟いた言葉を唇でなぞる。夢だからこそ聞ける言葉。現実には有り得ない言葉、だ。自然、喉の奥から自虐的な笑いが零れる。


「……好き、か…」
「…ん?何か言ったか?」
「…ああ、いや、何でもないですよ…ハハ、なんかうとうとしてたみたいで…」
「…ったく、ホントに何やってんだお前は…」


なんとなく、彼女に対する衝動だけは、その内、現実にしてしまうような気がした。




心臓に食べられる


(やってる事はSなんだが夢というところがへたれ。たぶん誰か本気で彼を受け入れてくれる人が居たらああはならなかったんだろうな)

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