指先で消した感情


とある貸しビルの屋上で、セーラー服の少女が焼きそばパンを頬張っていた。何処であろうとしっかりと施錠してある筈の屋上に、年端もいかない少女が平然と立っているその様はなかなかに不自然な光景だったが、更にまるで学校の屋上でそうするかの様に平然とパンを食べるという行為も不自然さに拍車をかけていた。少女は、名を綾と言う。

「あー…やっぱメロンパンにしとけば良かった」
「こんなとこで何してんの、綾」

少女に声をかけたのは、少年だった。全身黒づくめの服で、黒いタートルネックの上からトレンチコートを羽織っている。あどけなさの残る端整な顔立ちに浮かんでいるのは困惑だった。

「あ、にのまえくん。いやここで待ってたらにのまえくんに会えるかなって」
「わざわざ此処じゃなくて家に来たら?」
「!?それは…お泊りの誘いですか!?いや私達ほらまだ手も繋いでないのにそういうのはちょっと」
「母さんが居るとこで何しよーとしてんのお前」
「お母さんは何番目のお母さん?」

まるで昨日の晩御飯は?とでも聞くように、綾はにこにこと笑って言った。
ニノマエはゆっくりと瞬きをして、彼女の表情を窺う。別に、わざわざ親切に正直に答えてやる必要も無い質問だ。だから、スペックを使って彼女との距離を詰めて見せた。

「うあっそんなにいっぱいスペックつかわないでよーもう、にのまえくんたらそうやってまた時間止めて私の身体をあちこち触ったんでしょ!にのまえくんのえっち!」
「いや、ほんとそれもう言われ飽きてるんだけど…触ってないし、スペックをそういう事に使った事もないから」
「ないの!?それは…なんていうか…人生そのものを損してるよ…私だったら間違えなく触るよ…!男の夢でしょ!?」

何故だか怒られ、ニノマエは言葉に詰まった。
綾はよくわからない少女だった。よくわからないけど、変わっている少女。

「スペックの使い道はちゃんと考えないとだめだよ」
「ふぅん。使い道、ねぇ。よくわからないけど」
「なら、一番になるといいよ。王様になるの」
「王様?」
「うん。王様になったらみんなを助けられるよ」
「助ける価値のある人達がそんなにいっぱいいるとは思えないなあ」
「助ける価値のある人達はみんないなくなっちゃった?」

限り無く悪意在る内容を悪意無く言って、綾は笑顔を止めた。
ニノマエが両手で綾の身体を挟み込むようにして、手すりに押し付ける。強い風がふけば、あっさりと下へさらわれてしまいそうだ。息がかかるくらいの距離で、黒い眼差しが少女のそれを射抜く。

「いや、まだ居るよ。母さんだけには幸せに生きて欲しい」
「お母さん想いなんだね」
「それは褒め言葉として受け取っていいのかな」
「もちろん、その気持ちはよくわかるよ。にのまえくんが今この瞬間も私のおっぱいがあたる感触を楽しんでいる事が」
「全然わかってないだろ」

気恥ずかしさからぱっと離れると、少女の身体の温かさも消えて行った。
それに何故だか胸の奥が痛くなったけれど、それもほんの一瞬の事だった。






(主人公もスペックホルダーですが、リストから抹消されてます。居場所を転々として色んな追手から逃げてる。にのまえくんは多分業界で有名人だろうし学校で知り合ったのかと 主人公はきっと素エロ、エロネタを振られてあわあわするにのまえくんが描きたかったんです)
2010/12/15


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