01


「ハンバーガーひとつと紅茶ひとつとコーヒーひとつとステーキひとつ。ハンバーガーはトマト抜きで紅茶は砂糖たっぷりコーヒーはブラック、ステーキはレアで」


メニューを視界の端に注文を並べると、赤毛のウエイトレスのおねえさんが眼をぱちくりした後カウンターへ注文を繰り返した。
ちらちら。店主から客から目線のあった端からそらされる。
まあ、無理も無い。古風なスーツを身にまとった銀髪の少女に、シャーロックホームズのようにパイプをくわえた探偵風の男。極めつけに学生服姿の東洋人というまじどんなパーティーメンバーだよ的な感じで目立ちまくる客に向かってその反応は当然だといえた。


「えーと、それで被害者は?」
「ここ3年で三人。三人とも10代から20代の女性で、どれも刺殺の後血を抜かれている。まるで吸血鬼の仕業だ、と。ふむ。ありがちではあるが面白そうな事件じゃないか!」


モノクルの向こうの意外にも若々しい双眸を興奮させ、ドリッキーさんは売店で買った新聞を折りたたんだ。
その横の席のワトソンちゃんはもう既にお腹がすいてどうしようもないらしく、小首を傾げている。「ユキ、まだ?」肉の催促のまなざし。

カウンタの向こうからジュージューと肉が焼ける音。たちまちソースの匂いが鼻腔を擽って、ワトソンちゃんの視線が私を非常食として見る時のそれになってゆくのをひしひし感じる。


「どんな風に血が抜かれてたんですかね」
「切られた頸動脈の傍に二つ、吸血鬼に噛まれたような痕があったらしいわ」


ウェイトレスのおねえさんがハンバーガーとステーキの乗った大皿を二つ、テーブルに置いてそう言った。
ワトソンちゃんが即座にレアステーキに噛み付く。それも手掴みで。当面は頭から齧られる心配がなくなった。


「あなたたち、殺人事件マニアか何か?最近多いのよね」
「殺人事件マニア、などではなく私達は個人的にこの街の事件を調べに来たのだよ、お嬢さん」


ドリッキーさんが紳士っぽく堅苦しい口調で言う。がしかし熱熱のコーヒーに息をふきかけ冷ましながら言ったので緊張感の欠片もない感じに仕上がっていた。
私は口端のケチャップソースを指先で拭い、


「つまるところ、ただの殺人事件マニアです」
「ユキ、」


抗議の声をあげようとするドリッキーさんを制して簡単に自己紹介する。今日はこの街に泊まる予定だし、前みたいに変に警戒されたくない。


「私はユキです。探偵風の彼がドリッキーさんで、ステーキにしか興味無いのがワトソンちゃん」
「私はアンナよ。保安官も頑張ってはいるみたいだけど、はやいところ捕まえて欲しいわ」
「よろしくおねがいします、アンナさん。えっと、あともう一人、」


むぐむぐとハンバーガーを頬張りつつ―ーあれ、そういえば。


「そういえばミラルドさんてばどこいったんですか?」
「さあ。ちょっと街を見て回ってくるみたいなことを言っていたが」


アンナさんがまだこれ以上変なやつがいるのかよみたいなひきつった顔をした。



猫と探偵と狼と、鏡眼鏡の吸血鬼



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