始まりはなんだったか、
 旅立ちはいつだったか、
 もう忘れてしまった。

 目指す場所が何処なのか、
 帰る場所が何処なのか、
 もうわからなくなった。


 それでも僕の足は動く。
 似ているようで違う世界のあちこちをさまよう。
 居心地がよくて何度も訪れる街がある。
 懐かしさに出会うために向かう村がある。
 でも、僕の家は見つからない。

 いくつもの土地を通り過ぎてきた。
 疲れたら宿で夢を見た。
 起きたらまた歩いて、歩いて、歩いて。
 目指す場所を探し続けている。
 きっかけも思い出せないまま、動き続ける足に身を任せて。
 僕は旅をしてきた。
 きっとたぶん、動けなくなる日まで、変わらない。


 行く先々で出会う人たちは素敵な人ばかりだ。
 こんな僕を友と呼んでくれる人もいる。
 たまに、彼らの幸せな暮らしへ間借りしてみたり。
 彼らの苦難に手を差し伸べてあるべき場所へ導いたり。
 僕自身のことよりもよほど見えるものが多いから、ついついそちらを優先してきた。
 これからもそうするだろう。
 彼らは彼らの家を守るべきだから。
 僕はその手助けをできたら、たぶん後悔しない。

 そのうち野ざらしになるかもしれないけど、それでも、そうしたいと思うから。
 せめて彼らの邪魔をしないようにしたいなあ。
 ずっと幸せでいてほしいなあ。
 眩しくて暖かな光が、消えないでほしい。
 くらい道を歩く僕にとってそれはかけがえのないものだから。
 なくならないでほしいから。
 これはただの僕のわがままなんだろうけど。


 いずれ終わりが来るのなら。
 なんにも残さずに消えてしまいたい。
 せめて思いの欠片は残したい。
 矛盾を抱えて僕は進む。
 次に辿り着くのはどこだろう。
 船旅になるかもしれない。
 深い山の奥へ向かうかもしれない。

 まだ見ぬ世界へまた一歩、近付いていく。
 振り返っても見えない世界が広がっているけれど。
 どうせ一方通行なのだから。
 立ち止まることもできないのだから。
 前を向いて、歩いて行こうと思う。
 どうしようもなく痛む空白を抱えて、生きていこう。
旅人の独白

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