甘い恋をカラメリゼ | ナノ
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 うっかりのんびりしすぎて、二限には遅刻寸前で間に合った。出席が命の講義だったから、俺はダッシュで教室に滑りこんで息絶え絶えに席につく。ぜーぜーと荒く呼吸をする俺をみて、彰人は「おつかれ」なんて言って笑っていた。

 この講義は出席が終わってしまえばあとは教授のどうでもいい話が終わるのを待つだけだ。過去問さえあればテストも乗り切れるため、話を聞く必要もノートをとる必要もない。前列に座っている熱心な生徒以外は話をきいていない光景に、なんとなく教授が気の毒だな、と思いつつも俺も奴の話は全く聞いていなかった。

 でも、今回はやることがあるんだ許してくれ前田(教授の名前)。俺はスマホのメッセンジャーの画面を開く。



『昨日今日とお世話になりました!おにぎりとお味噌汁、ごちそうさまでした!』



 智駿さんにとりあえずお礼のメッセージを送らないと……というわけで、教えてもらったIDに俺はさっそくメッセージを送ってみる。

 もうちょっと気の利いた言葉を送りたかったところだけど、悩んで悩んで、こんなあっさりとしたものになってしまった。もともと文章で想いを伝えるのは苦手だったし、智駿さんにどのくらいの親しさでメッセージを送ったらいいのかわからなかったのだ。


「うわっ」


 ブランシュネージュの開店時間はたしか11時。智駿さんはいまごろ準備で忙しいだろうからすぐには返信はこないだろう……そう思っていたから、俺は驚いた。メッセージが帰ってきたのである。小さな声をあげてしまった俺を、彰人が変な顔をして見つめてきていた。


『学校遅刻せずについた?』

『ギリギリ間に合いました! 智駿さん、今忙しくないんですか』

『それはよかった! 準備も終わったから、あとは開店時間を待つだけなんだ。ちょっとだけ暇しているんだよね』


 なんだろう。こんな些細なやりとりをしているだけで、心がふるふると震えるような、そんな静かな歓びが沸き上がってくる。

 たぶん顔がにやけているな、と思って俺はまわりから顔が見えないように俯いて画面を見続けた。なんて返信しよう……色々考えてみる。メッセンジャーの上に表示される『花丘智駿』という名前をみているだけでなんだかどきどきと浮かれてしまって、なかなか言葉が浮かんでこない。

 変なことを送ってしまってうざいって思われないかな、なんて妙な臆病が俺のなかに潜んでいるのだ。


『梓乃くん、18日の夜暇だったりしない?』


 そうやってぐるぐると考えていると、智駿さんのほうからメッセージを送ってきた。あれ、これはもしかしてまた会おうってことかな、なんて期待してしまって、かあっと顔が熱くなる。

 勘違いだったら嫌だけど、そうだったものすごく嬉しい。俺はバイトのシフトを確認して、丁度18日が暇だということがわかると同時に――思い出す。そういえば、次の日の19日。俺の誕生日だったな、なんて。


『あいてます!』

『よければご飯にでもいかない? このまえお客さんにおすすめされたお店で気になっているところがあって』


「〜〜ッ」


 やばい。ご飯のお誘いだ。俺は机の下で小さくガッツポーズをとる。俺は興奮のあまり震える手でなんとか文字を打っていく。


『いきたいです! 誕生日前に智駿さんとご飯できるなんて、最高の誕生日プレゼントかも(笑)』

『次の日誕生日なの? そういえば梓乃くんって何歳?』

『19です。その誕生日で、20歳になります』

『そうなんだ〜。誕生日って誰かと会う予定ある?』

『その誕生日の夜に、友達がパーティー開いてくれるって』

『いいね! 誕生日の夜ってことは、0時になるときには僕と一緒にいても大丈夫かな』

『大丈夫だと思います!』

『じゃあ、僕が梓乃くんに一番乗りでおめでとう言えるね(笑)よければご飯のあと僕の家に泊まりに来ない? 20歳になったお祝いに、美味しいお酒ふるまってあげるよ!』

『いいんですか!? ぜひ!』


「……」


 うまくことが運びすぎじゃないのか。そう思うくらいに、智駿さんからのお誘いが嬉しかった。

 誕生日の前日に智駿さんとご飯にいって、そのままお泊りして、誕生日を祝ってもらえるなんて……。最高すぎる。今年の俺の誕生日、本当にやばい。


「梓乃? おまえどうしたの?」

「ううん……俺今やばい」

「え? っていうかめっちゃにやけてね? もしかしてそれ、彼女?」

「違うよー」


 俺の様子がおかしかったのだろうか、彰人が見かねてこっそり尋ねてきた。俺は静かに彰人に答えながら、「あれ?」と思う。

 「彼女?」と聞かれて、思ったのだ。今、智駿さんに対して抱いているこの気持ち。そういえば、いい感じになった女の子に対して抱くそれと一緒だなあ、なんて。

 でも智駿さんは男。恋なんて、そんなことあるもんかって。そう思って、俺はまた幸せに耽って机の上に突っ伏した。


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