二十


「おお、美しいな、織!」



 詠に連れられて、大広間の前までやってくる。そうすればめかしこんだ玉桂が待っていて、二人を出迎えた。詠に支えられてよろよろと脚を震わせながら歩く織を、抱き留めるようにして受け止めて、玉桂はにっこりと微笑んだ。



「ご苦労、詠。あとは外で見張りをしていてくれないか」

「……はい」



 織の汗で額に張り付いた前髪を、玉桂が整えている。

 織は、玉桂に妖術をかけられて「イけそうでイけない状態」にずっとさせられていた。乱れている時の織が何よりも美しいからと、婚儀の際も感じたままの状態で出したいのだという。

 このまま、玉桂に首ったけのまま式をあげて、きっと織は玉桂の口付けを受け入れるのだろう。詠はそんなことを思いながら、そっと二人から離れてゆく。



「くく、喜べ織。今宵おまえは、もっとも幸福な人間になるのだ」

「……はい」

「私と結婚できるなど……この世全ての女が望むこと! それを今宵おまえは、可能としている! 永遠の命、永遠の美しさを手に入れ――おまえは私の嫁になるのだ」



 玉桂がぐっと織の腰を抱き寄せると、織はひくんっ、と震えながら玉桂にひたりと抱きついた。そうしていなければ、立っていられない。淫らな体は、もう自分の意思では動かない。



「玉桂さま……」

「ふふ、そんな切なげな目で見るな。大丈夫さ、狐たちの前でおまえのことはたくさんイかせてやる。おまえの淫らさで狐たちを惚れさせよ」

「はい……いっぱい、……イきたい、です……」

「くくっ、それでこそ我が嫁。さあ、行こうぞ。森羅万象がおまえと私を祝福するぞ」



 玉桂に抱きつきながら、よた、よた、と織は歩く。目の前には、大広間の扉。

――宴の幕が、上がる。
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