「ふふ、おかえり。鈴懸、それから織」



 屋敷に帰ると、やはり屋敷の者たちが織を出迎えた。織が屋敷の者たちと目を合わせないようにして風呂へ向かおうとすると、白百合が声をかけてくる。



「ほお〜、今日も有意義な旅だったようだな」

「……はあ? 嫌味でも言ってるのかおまえは」

「まさか。其方の力が戻ってきていると言っているのだ。良いことではないか」

「……俺の力?」



 白百合はにたにたと笑いながら、織と鈴懸を見つめる。

 織が鈴懸を信じれば信じるほど、鈴懸に力が戻ってくる。それは周知の事実なのだが――織も鈴懸も、それによって実際に鈴懸に力が戻ってきているということを自覚していない。二人は――自分の心の変化に、気づいていない。

 白百合はそんな二人をみて、愉しげに目を細める。そして……すっと織に近づくと、耳元で囁いた。



「――鈴懸に心をひらいているようだな」

「……ッ」



 織はカッと顔を赤らめると、逃げるようにして走りだした。白百合が織に何を言ったのかわからない鈴懸は、ぽかんとするばかり。



「おまえも、素直になればいいのに」

「なんのことだよ」

「さて、どうだろうな」



 けたけたと笑いながら去ってゆく白百合の背中を、鈴懸はじっと睨む。

 妙に彼女の言葉がひっかかるのは、彼女の言葉に心当たりがあるから……だろうか。




水色の章 了

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