六十五
 *

「ん……」


 夢を見ていた。

 ずいぶんと懐かしい、心のどこかへ閉じ込めてしまった記憶。

 白百合はのそ……と体を起こす。

 そういえば、あれから詠とはたくさんおしゃべりをした。夜が更けるまで。そして……いつの間にか眠ってしまっていた。ふと気がつくと、ベッドの傍らの椅子に座った詠が、ベッドに突っ伏すようにして寝ている。白百合が眠る姿を見ていたのだろうか。そのうちに寝てしまったのだろうか。白百合はふっと微笑んで、詠の頭をやさしく撫でた。


「いつまでも……咲耶を呪い続けるわけにもいかぬな。詠……」


 する、と詠の髪の毛の束をとって、指先でもてあそんだ。

 そのときだ。

 詠がハッと勢いよく目を覚ます。


「うっ……ぬおっ!? なななななんだ! 突然起きるでない、驚くではないか!」

「結界が……」

「なぬ?」

「結界が破られました……誰かが屋敷に……まさか!」


 詠は屋敷の結界が破られた衝撃で目を覚ましたようだった。こめかみから冷や汗を流しながら立ち上がる。


「吾亦紅――きたか!」


 吾亦紅ほどの妖怪であれば、結界を破れるのも不思議ではない。ここまで早く織の居場所を突き止められるとは白百合も詠も思わなかったが、予想の範疇である。

 二人は急いで織のもとへ向かうのだった。
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