「おまえ、家族と不仲なの?」



 屋敷から出て数時間。織と鈴懸の間にほとんど会話はなかったが、ふと鈴懸が織に話しかける。一晩織の側にいて思ったのだ。織は、ほとんど家族と会話をしない。家族から疎まれているというわけでもなく、ただ、織が家族を避けているだけのように見えるが……。

 鈴懸としては、織がどういった生活を送っているのかなんてことはどうでもよかった。織は自分が現界するための道具にすぎないのだから。ただ、気になったことを聞いてみただけ。織に興味がないからこそ、こんなふうに率直に聞けてしまうというところもあるだろう。



「……別に。仲が悪いわけじゃない。でも、嫌い」

「へえ、なんで?」

「なんでって……あいつら、俺のことを心配する振りして、結局碓氷としての体裁が大切なんだろ! 俺のことなんて大切に思ってないよ、あの人たちは……」

「? その根拠は?」

「……っ、知らない! でも、あいつら、どうせ……」

「……ふーん」



 織は、あまり聞かれたくないことを聞かれ、不機嫌になってしまったようだ。言葉を荒げ、鈴懸に乱暴な口調で言葉を返す。そんな、妙にムキになってしまっている織をみて、鈴懸ははあとため息をついた。

――めんどくせえ、こいつ。

 なんとなく、織という人間をわかってしまい、関わりたくないと思ったのだった。彼の深い部分まで知りたいと思うほど、鈴懸は織に関心などない。適当に距離をとって、自分の上手いように使ってやろう、そう思った。

 それからは鈴懸も織と話す気がなくなってしまって、二人の間には無言が続いた。しかし、気まずいということはない。お互いがお互いに関心がなかったため、話さないですむならそれでいいと自己完結してしまっていたのだった。
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