十一


「白虎の求愛を受けるとは大したもんだぞ! すごいではないか、織」

「……いや、「俺」が受けたわけじゃないし……っていうかあの千歳って人、一言も喋ってくれないし何考えているのかわかんない……」



 お見合いが終わってからというものの、織は頭に雲を被っているかのようにどんよりとしていた。

 当然と言えば当然。縁談を断りきることができず、これから何度か逢瀬を重ねることになってしまったのである。鈴懸以外の人のことを考えられない織にとって、それは酷く辛いことだ。



「……え、白百合さまは、俺と暦さんが結婚することを推すんですか?」

「いいや? 其方がはっきり断らないのだから、妾は其方が結婚することを推すぞ?」

「お、俺は本当は断りたいですよ……! 別に結婚したいわけじゃ……白百合さま、それくらい、わかってください……」

「はて。断ろうとしなければこのまま結婚することになるが? 断りたいなら断ればいいではないか」

「……そんなに、簡単なことじゃないんです……」



 落ち込む織に、白百合は慰めの言葉らしきものを一切かけない。それが余計に織を追い詰める。

 鈴懸は暗い表情を浮かべる織が気掛かりでならなかったが、それ以上に白百合に違和感を覚えた。彼女は、先ほどまではこちらの味方のような発言をしていたはず。一体何を考えているというのだろうか。



「……おい、白百合。おまえな、俺たちのこと面白がって見てるのかよ。言っておくけど、俺は真面目に、」

「まさか。鈴懸、其方のことはどうでもいいが、織のことは好きだぞ? ふふ、織は愛くるしいからなあ。幸せになって欲しいものだ」

「だったらなんで……」

「ふん。そんなこと、なぜわざわざ其方に言わねばならんのだ。妾は織が「断らない」から「断る意思がない」と判断したのみ。妾は財閥がどうこうなど興味がないのだ。織がどうしたいか、それだけが妾の興味をそそる」

「……」



 鈴懸は訝しげに眉をひそめて白百合を見つめる。結局、彼女の考えていることはわからない。

 下を向く、織。鈴懸はそんな織に寄り添って、そっと肩を抱く。大財閥の息子という、「しがらみ」。鈴懸はその全てを理解しているわけではないが、織がやりたくてお見合いをしたわけじゃないと、わかっている。織がそれで悲しんでいることも、本当に好きなのは鈴懸なのだということも。

 この先、どうなるのだろう。不安でならなかったが、鈴懸は織を放したくなかった。

 鈴懸は白百合の目から隠すようにして。織のことを抱き寄せ、そっと、織の部屋まで連れて行った。


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