二十五(4)


「し――」



 あまりに美しくあまりに哀しいその笑顔を見て、心臓を握りつぶされたような苦しさを覚えた鈴懸。瞠目したその瞳に――見るにもおぞましく淫らな光景が映る。



「あ……」



 織の足下から、蛇のような黒い妖怪が何匹も出現する。頭が男性器の先端のようになっていて、気味の悪い生き物だった。それが織の体をずりずりと這いずり回り……織の肌を愛撫してゆく。



(あれも……覚か……)



 その妖怪から感じる気配は、覚と同じもの。鬼と一概には言っても、形は様々。あの妖怪も織の心から生まれた覚の一部のようだ。

 ソレは、どんどん生まれてきて、そして頭上にまとめ上げられた織の腕まで上ってくる。その形のせいで、まるで何人もの男が織の体に男根をこすりつけているかのような光景となっていた。織はそんな妖怪に体をまさぐられて……頬を染めて、体をくねらせている。



「あぁんっ……!」

「織、……」

「すずかけさまっ……あぁっ……ぁんっ……みないでぇ……あぁー……っ……」



 鈴懸に痴態を見られながらも、織はたしかに感じていた。はぁはぁと熱っぽい吐息を吐き、目を蕩けさせ、甲高い声をあげている。

 鈴懸に見られながら感じてしまうのは、すごく、いやなのに。いやなのに、感じてしまう。いやなのに、いやなのに。鈴懸の視線が怖くて、でも気持ちよくて……織はぼろぼろと泣きながら、悶えていた。



「あぁあ……いっちゃう、……いっちゃう……すずかけさま、いや、……みないで、……いくところ、……みないでぇ……」

「み、見るな、って……」



 織を、あの責め苦から救いたい……が。巨大な覚が後ろに構えている手前、下手にああして捕らえられている織に手をだせば、織がどうなるかわからない。織を奪い返す隙をつくためにも鈴懸はその淫らな光景を見続けるしかなくて……織は、ひたすらに、一番好きな人に自分の淫らな姿を見せつけることとなってしまった。



「はぁっ……あ、……んんっ……」



 蛇のような覚は、織の全身に頭をこすりつけてくる。亀頭のようなそれが肌を撫ぜれば、白い……まさしく精液のような液体が織の体にこびりつく。さらに――何匹かが織の股間に群がってきた。それは、争うようにして織の孔にぐりぐりと頭を突っ込み……びちびちと暴れ回る。



「ぁひっ……あっ……あぁっ、んっ……だめっ……なかっ、いやっ……」



 後ろで見ていた覚が、織の中に入り込んだ蛇の体をがしりと握る。そして、ソレを上下に揺らした。そうすれば、その何匹もの蛇がじゅぶっ、じゅぶっ、と織の孔をでたり、はいったり。男性器の雁首のようなソレが、織の前立腺をゴリゴリと擦りあげ……織はびんびんに勃起してしまった自身から、ぴゅるるっと精液を吹き出させた。



「すずかけさま……あっ……あ……」



 達したあとも尚、織の体はまさぐられ続けている。織はとろとろに蕩けた絶望顔で、切ない声をあげ続ける。

 びくんっ、びくんっ、と体を震わせ、鈴懸にイキ姿を見せつけた。



「織、……まってろ、……助ける、から……」



 覚に心を喰われてしまった織。これが、織が頑なに鈴懸のことを拒んでいた理由。

 鈴懸はその姿に強烈な敗北感を覚えた。しかし――ただ嘆いてばかりもいられない。

 織がここまで変わってしまったのは、ただ体を調教されていたからではない。心までもを、犯されていたからだ。「醜いおまえが、愛されることなど赦されない」と刷り込まれていたから。

 救わなければ。その、地獄から、織を……何が何でも。



「織……! 泣くな、大丈夫だから……! 俺はおまえを――」



 救えるか、救えないか。そんなことは問題ではない。救うんだ。

 鈴懸が一歩、踏み出した――そのとき。



「――どうした竜神。私の織を、奪い返すことはできたか?」



 壊れた壁から――玉桂が、顔を出した。


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