金色の午後の日差し、白黒の海。

「俺、昔、ゆうのこと好きだったんだ」

「んぶっ」



 突然の告白に、俺は飲んでいた野菜ジュースを吹き出しそうになった。

 誰もいない屋上、静かな昼休み。静かに二人で昼食をとりたいと思ってここへきたけれど、聞かされたのは衝撃の事実。



「あのときは、理解していなかったけど……今思えばあのときの気持ちは、恋だったのかなって」

「春原のこと……好きだったの?」

「触られるたびに、もっと違うところを触られたりしないかなって期待をしていた気がする。今、俺が結生に持っている気持ちと一緒だから、……たぶん、あれは恋なのかなって」

「……俺に触られると、ほかのところも触って欲しいって思う?」

「……うん」



 昔の春原に嫉妬を覚えながらも、今、涙は俺のものだって実感するとたまらなく嬉しい。

 そっと涙の腰に手を回して抱き寄せれば、涙は「ん……」と小さな声をあげて俺の方に頭を乗せてきた。



「すごく、ゆうのこと好きだったから……少しずつ距離ができていくのが、本当につらかった。昨日は、そんな俺の気持ち、全部ゆうにぶつけてきたんだ」

「……うん。涙、ほんと、がんばったよ」

「ずっと、友達でいたいっていう気持ちは、心の中でずっと持っていたから」



 涙の頭を撫でながら、涙の話に耳を傾ける。

 最後にみた春原の様子が本当に大変そうだったから、あれから涙がどうやって春原をあそこまで回復させたのだろうと、正直気になっていた。涙はひっこみじあんであまり気持ちをぶつけられるタイプでもなかったから、なおさら。でも、俺が思っている以上に涙はがんばったようだ。それを聞いて俺は嬉しくなる。

 大好きな涙が前へ進んでいる姿を喜ぶのは、当然というもの。



「結生。支えてくれて、ありがと」

「……うん」



 改めて、涙のことが愛おしいと思う。抱き寄せた涙が、気持ちよさそうに目を閉じているその顔が、かわいくてどきどきする。



「……よかった、涙。涙が、元気になれて」



 涙の髪の毛に唇を寄せる。さらさらの髪の毛を一束唇ではむと、ふわっと甘い匂いがする。



「……結生。今日……」

「……うん、」

「……したい、な」

「……なに、したい?」

「……せっくす、……したい」

「……うん。俺も、したい。……あ、帰り、ローション買いにいこっか。切れてた」

「……うん」



 涙がちらりと顔をあげて、俺を見つめた。長い睫毛の下の、綺麗な瞳。俺が何度も焦がれたその瞳は、何度見ても心を奪われる。

 指先で涙の耳を触って、そうすれば涙がむずむずと目を蕩けさせる。はあ、と熱い吐息を吐いた涙の唇が、色っぽい。

 とん、と額をあわせて、鼻先をくっつける。涙は伏し目がちになって俺から視線を逸らしていたけれど……俺を誘うように、唇を薄く開いていた。



「涙……好き」



 目を閉じて、涙と唇を重ねようとした。

 そのときだ。



「――あっ」

「えっ」



 扉の開く音。誰もいなかった屋上に、突然の来訪者。

 ぎょっとして音のした方を見てみれば――



「わ、わるい……おじゃましました!」

「ちょっ……ちょっと待って!!」



 気まずそうな顔をしてこちらを見ていた、横山。たぶん、普通に俺が涙にキスをしようとしていたところを、見てしまったと思う。

横山は俺たちにやたらとさわやかな笑顔を見せたかと思うと、バタンと勢い良く扉を閉めて逃げてしまった。なんだか勢いが良かったもので、俺はその扉の音につられるようにして立ち上がる。そして――猛ダッシュして横山を追いかけた。




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