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ボロボロになった庭を眺めながら、ロードリックはガハハと豪快に笑っている。気まずそうに並んで立っているハルとラズワードを横目に。
「レッドフォード家にも骨のあるヤツがいるとはなァ! で、なんなんだこいつは、次男坊!」
「……ラズワードだよ。俺の……、……」
「ほお、ラズワードな。覚えたぜ! ワイルディング家の人間だろ? ってことは、騎士か?」
「まあ、……そんな感じだと思ってもらえれば」
ハルは苦笑いをしながらロードリックから目をそらす。
騎士――そうだ、彼は自分を護ってくれていた騎士。
戦っている姿に目を奪われた。きらめく氷の光のなかで、青い瞳でまっすぐに敵を見据えて剣を振るう、そんな彼の姿に見蕩れた。ときおり見せる微笑みに、恋をした。
自分の世界に現われた、青の色。白黒の世界を美しい青で染めた。そんな彼を――真っ白に、何もかもない、空っぽの人間にしてしまいそうになったのだ。
「なんか満足したぜ! オレは帰る!」
「……修繕費はあとで請求しますよ」
「修繕費? ……ガッハッハ! 小せえことは気にすんなよ!」
ハルとラズワードの様子を気にすることなく、ロードリックはズンズンとラズワードに近づいてゆく。
「おまえオレのところにこないか?」
「……えっ」
「おまえ強ェからなあっ! オレと一緒に高みを目指そうぜ!」
「あはは……いえ、俺は……」
ロードリックからの突然のスカウトに、ラズワードは当然ながら首を横に振ろうとした。しかし、その前にハルが言う。
「……ラズワード。いいよ、きみは……ブライアーズ家に行ったほうがいいと思う」
「――え、」
ラズワードは聞き間違いかと思って、目を見開いた。ゆっくりとハルを見やると、ハルは哀しそうに微笑んでいる。
「な、なにを、ハル様……」
「……ラズワード。きみは、これからもレッドフォード家にいたい?」
「そんなのあたりまえ……、……」
ハルからの問いに、ラズワードは言葉を詰まらせる。
ハルのことを愛している。ハルのことをこれからも護りたいと思う。けれど――これ以上彼の傍にいると、彼を傷つける。
ラズワードは唇を震わせて、ハルを見つめることしかできなかった。じわ、と瞳に涙が浮かんできて、それを零すまいと耐えたが……ぽろり、と涙の雫は頬を転がってゆく。
「……おっと、オレ余計なこと言っちまったかァ? まあいいや。割と真面目に考えておいてくれやァ。オレは帰るぜ」
二人の空気に、流石のロードリックも耐えかねたようである。二人に背を向けて、ひらひらと片腕をあげて、そして帰ってしまった。
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