11


 ぱち、と瞬きをすると、朝の日差しが視界に入り込んできた。眩しくて、ラズワードは思わずまぶたを閉じる。


「……」


 もう、この別荘に来て何日経っただろう。朝も、昼も、夜も。本当に一日中、快楽を与えられ続けた。オモチャを使うこともあれば、ハル自身が抱いてくることもある。毎日媚薬を投与されながらそのようなことをされて、ラズワードは身体も頭もおかしくなり始めていた。

 ずっと、腹の奥のほうがじんじんとしている。淫らなことをしていないと、身体が枯れていくような感覚に陥ってしまう。快楽の中毒になりかけていた。嫌なはずなのに、気持ちいいことをされていないと、焦らされているような感覚に陥って、身体の奥がむずむずとする。そして、身体がそんな風になっていることに違和感を抱けない。自分は一生こうして生きるのだろうと、そんな風に思っている。

 ラズワードはぼんやりと、ベッドの上で横たわっていた。この一週間、服を着ていないような気がする。ずっと裸で生活させられていた。セックスをするか、調教をされるか。そればかりだったので、服を着る必要性がなかった。食事をするときも、裸だった。


「ラズ、起きたの?」

「……ハルさま……」


 ベッドの傍らに、ハルが立っている。昨夜は一緒に眠ったはずだが……どうやら、彼は先に起きていたようだ。

 ああ、今日も彼に抱かれる――そんなことを思って、ラズワードは身体を起こす。そして、命令を待つ犬のようにベッドの上に座って、じっとハルを見上げた。


「今日から俺は、仕事にいかないとなんだ。ここに来てからもう、一週間経ったから」

「……じゃあ、俺は、」

「ラズはここにいて。夜になったら、俺もまたここに来るから」

「……俺は、何をしていれば、」

「自由にしていていいよ。食料も置いてあるから、自由に食べて」

「……」


 ラズワードは今、特に拘束などはされていない。

 しかし、ラズワードの中に「逃げる」という選択肢はなかった。着る服もない、薬の影響か魔術も使えない。頭がぼんやりとしていて、外に一人で出るのは危険。脚はふらふらとして、スムーズに歩けない。

 逃げられなかったのだ。もう、ハルの傍でしか、生きられない身体になりかけていた。

 だから――ハルが、一時的でも外に出て行ってしまうと聞いて、怖くなってしまった。


「……ラズ」


 ハルがにっと笑う。ラズワードの不安げな表情に満足したのだろうか。何かを取り出すと、ラズワードの目線に合わせるように屈む。


「いい子で待っていてね」

「……?」


 ハルが手に持っていたものは、異様な形をした――下着、のようなもの。いや、これは、貞操帯。自らを慰めることができなくなってしまう、性器の拘束具のようなものだった。しかも、ペニスを覆うだけの貞操帯ではない。ボコボコとしたイボのついたディルドまでついている。ディルドで刺激を与え続けながらも、絶頂を許さない――そういった貞操帯である。


「あ……」

 
 怖い、と思った。しかし、ラズワードは抵抗しなかった。ハルにされるがまま、貞操帯のベルトに脚を通してゆく。ベルトが両脚を通ると、ラズワードは自ら膝立ちになった。貞操帯を付けてもらいやすいように。


「ラズ、ここに触ってごらん」

「……?」


 ハルに誘導されるがまま、ラズワードは貞操帯に付いているディルドに手を伸ばす。ボコボコとした形のそれは、指の腹で触れるとヌルリと変な感触がした。


「濡れてる……」

「媚薬が入ったローションを塗り込んでいるんだ。一日、俺はラズの相手をしてあげられないから。これで、気持ちよくなってもらおうと思って」

「びやく、直接……なかに、……」

「そうだよ。ほら、お尻の穴、ひろげて。入れるから」

「……ッ、はい……ハルさま……」


 こんなものをなかに入れられて。ハルが帰ってくるまで、イくことができない。そんなの、くるしい。

 ラズワードは怖くて堪らなかったが、ハルの命令には逆らわない。言われるがまま、自らの尻の肉を掴んで、ぐぐっと穴を広げた。ぱか、と穴が開く感覚に、ラズワードはかあっと顔を赤らめる。


「いれるよ」

「あ……」


 ディルドの先端が穴のいりぐちにピタリとあげられる。その瞬間、下腹部がキュン、とヒクついた。思わず内股になって、ラズワードはぐらりと身体をよろめかせる。


「ぅあ、あぁあ……あぁんっ……」

「俺のより、ずっと小さいでしょ。もどかしいと思うけど、一日我慢しているんだよ」

「ぅうっ、ぁん、あ……あぁっ……ん……」


 たしかに、ハルのものよりも、今まで使われていたオモチャよりも、ずっと小さなディルドだ。絶頂するには足りない。足りないけれど……入ってくると、ボコボコとしたイボが肉壁に擦れて、下腹部がゾワゾワとする。


「は、ぁ、あ、あ、」

「ちょっと入れただけなのに、気持ちよさそうだね」

「は、はるさま、」

「ああ、焦らされるのはイヤ? じゃあ、一気にいれようか」

「あぁんっ!」

「はい、全部入った」


 ハルはディルドを根元までズブッとさしこんだ。ビクンッ! と震えたラズワードの身体を抱き込むと、そのままラズワードの下腹部を手のひらで押さえ、もう片方の手でディルドをぐぐっと奥まで押し込む。そして、ディルドの底を手のひらでぐりぐりと揺らし、ラズワードのなかをかき回した。


「あぁっ、あ! あ! イクッ! イクッ!」

 
 そんな風に強く押し込まれたら、いくら小さなディルドであろうと強烈な刺激になる。

 ぐちゅっ、ぐちゅっ、と淫らな音が響くが、その音はラズワードの甲高い声でかき消された。ラズワードはカクカクと腰を揺らし、顔を真っ赤に染めて嬌声をあげる。ハルの大きな手に下腹部をガッチリと支えられながらディルドでなかをかき回されて、狂いそうになった。


「あァ――ッ!! だめっ、だめっ! いっちゃう、だめェ――ッ!!」

「そんなに気持ちいい?」

「いいっ、きもちいいっ、あぁっ、ぁんっ、あぁあッ、いくっ、いくー……っ!」

「はは、やーらしくて可愛い。ほら、イッていいよ。イッて、ラズ」

「激しっ、あっ、あっ、あぁ――ッ、イクッ、はるさまッ、イク――ッ!!」


 ぶしゃ、とラズワードのペニスから潮が吹き上がった。ラズワードはうつろな目をしながら天井を仰ぐ。

 もう、潮を吹くのがクセになってきてしまった。潮を吹かされると、自分の身体が彼のものになったのだと実感してしまって、どんどん自我が壊れていくような感覚に陥る。当たり前のように潮吹きするようになったラズワードの身体は、もはや完全に彼の支配下にあるのだった。「あぁ……」とため息のような甘い声を出して、あふれてくる潮に恥じらいも覚えない。


「潮吹きが上手だね、ラズ。さあ、ベルトをしめるから。俺の肩につかまって、じっとしているんだよ」

「はぁっ……はぁ……はい、ハルさま……」

 
 だばだばと潮をペニスから垂らし、ラズワードはふと身体の力が抜けてしまった。ガクッ、と倒れ込みそうになったラズワードの身体を、ハルが受け止める。

 ハルは濡れたラズワードの股間をタオルで拭くと、貞操帯のベルトをしめていった。ペニスは金属製のケースに完全に覆われ、尻の割れ目にベルトがギチッと食い込む。ぎゅっと腹のベルトが締められると、ラズワードの身体はビクッと震えた。


「あ、ぁん……はる、さま……これ、ほんとうに……今日、つけてないと、だめ……?」

「うん。夜まで、ちゃんと付けていてね」

「っ……はい、……」

「がんばったら、夜にいっぱい可愛がってあげる」


 カチ、と貞操帯に鍵がかけられた。本当に、一日外せなくなってしまった。

 ほんの少し身体を動かしただけで、呼吸をしただけで、中に入ったディルドが微弱な刺激を与えてくる。ドクン、ドクン、と熱をもつペニスは完全に覆われていて、触れることができない。こんな状態で一日過ごしたら気が狂ってしまう。


「じゃあ、行ってくるね。ラズ」

「はぁ、……はぁ……行って、らっしゃい、はるさま……」


 ふらふらとしながら返事をするラズワードに、ハルがキスをする。ラズワードはぼんやりとしながら、彼の調教に酔いしれてゆく。
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