きらきら、きらきら。二人で過ごした日々が、霞がかって、揺れている。

 それが、かけがえのないものだということは、わかっている。幾星霜の時の果てでも変わることのない幸福であることくらい。

 愛していた――誰よりも。

 大切な気持ちのはずだった。




「う……」

 
 ずき、と体に痛みを覚えて、ラズワードは目を覚ます。ぼんやりとする視界をぐるりと動かせば、窓の外はすでに夜が訪れているとわかった。

 起き上がろうとする。その瞬間、ジャラ、と耳障りな金属音が鳴った。


「えっ……」


 ぎょっとして視線を落とすと――手は手錠で拘束され、首には首輪がつけられていた。驚きのあまり、ラズワードはそれを反射的に魔術で破壊しようとしたが、それは叶わなかった。頭が異様にぼんやりとして、魔術式が浮かんでこない。


「――俺がつけてあげたそれ、壊そうとした? 酷いね……ラズ」

「は、……ハル、さま」


 声が聞こえてきて、視線を遣る。薄暗い部屋の中、部屋の隅に置いてあるソファに、ハルは座っていた。に、と冷たい微笑みを浮かべながら、ラズワードに近付いてくる。


「あの、ハル様……これ、……」

「逃げるでしょ、ラズ。ラズは強いから……カッとなって逃げだす可能性が捨てきれない。だから、繋いでおこうかなって」

「……、ハル、様……?」

「魔術も使えないようにしておいたよ。薬……やっておいたから」

「くっ、薬……? 魔術が使えなくなる薬なんて、そんなもの……」

「ないよ。ないけど、結果的に魔術を使わせなくできる薬はいくらでもある。ほら、魔術って頭にきちんと魔術式を浮かべないと魔術が使えなくなるから……頭を使いものにできなくすれば、魔術は使えなくなるでしょ」

「な、なに、言ってるんですか……?」

「怖がっているラズも可愛いね」


 頭が使えなくなる薬――それは、いくらでもある。副作用が強い薬、毒薬、そして麻薬。いずれにしても、体に害の強い薬であることは間違いなく、ラズワードはハルを侵す狂気に早々に気付いてしまう。

 彼はおかしくなっている。手段を選ばなくなってしまった。


「ラズ、俺のものなのに他の男のところに行こうとするから……もう一回、調教し直さないと」

「ちょっ……調教、って」

「体から、俺に従順にしてあげるよ」
 

 
 
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