レヴィが帰り、ハルとラズワードはハルの部屋へ向かった。部屋にたどり着くまでの間、始終無言であった。
「――ハル様、あんなことを勝手に決めて、勝手に参加して、……すみません」
「いや、そのことは別にいいよ。兄さんに言ったら大激怒だと思うけど、俺は別にレッドフォードが云々とかどうでもいいし」
「……」
部屋についても、ラズワードはハルと目を合わせられなかった。何かが、怖い。ハルは怒っているようには見えないが、距離を感じた。
「俺、」
「――わかってるよ。ラズは俺のことを愛してくれている。でも、それ以上にノワールに何かしらの感情を抱いているよね。それが、殺意なのか、違うものなのかは知らないけれど……ラズはノワールのことになるときっと俺のこと、忘れているでしょ」
「そっ……そんなこと、」
「浮気とか言ってるんじゃないよ。でも今回の件でわかったからさ。自分の判断で革命の参加なんて決めちゃって……ノワールを討つってことが、俺と一緒にいることよりもラズにとって大事だったんじゃない?」
「……ッ」
ハルの言っていることに、ラズワードは反論できなかった。全くそのとおりだというわけではないが、否定もできなかったのだ。
ノワールを殺したいという想いは、理性を失ってしまうほどに大きい。だから、もしかしたらハルへの愛を一瞬消し去るほどに強いかもしれない。ハルのことは間違いなく、愛している。一生側にいたいと思っている。それでも――ノワールのことになると、彼のことで頭がいっぱいになる。その感情は、「愛」ではないはずなのだけれど。
「……だからね、ラズ」
「……ハル様」
頭の中が、混乱、混乱。自分が何者なのかがわからなくなるくらいにラズワードのなかは色々な感情が犇めいて、おかしくなりそうになった。そして、泣きそうになった。心臓一つに収まりきらない感情の波が涙として溢れそうになった。
そんな、ラズワードを。ハルがそっと抱きしめる。
「はやく、自分のなかで答えを見つけて。そして、俺に教えて。それがどんな答えだとしても、俺は君の全部を好きだから」
「……ッ」
「全部終わったら、今度こそは俺のことを一番にしてね」
「――はい……」
優しく自分を抱くハルの暖かさに、ラズワードはとうとう涙を流した。
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