「今日も研究所、ですね」
ラズワードがハルのネクタイを締めながら問う。「ああ」と軽く返事だけをして、ハルはラズワードの動きを眺めていた。細い指で、手早くネクタイをしめている。伏し目がちな長いまつげに飾られた瞳が、じっとハルの首もとを見つめる。
――最近のラズワードの表情は、どこか憂いげだ。
思いつめたような、そんな顔をいつもしている。何かあったのかと聞いてみても、笑って躱される。よそよそしいというわけでもなく、避けられているというわけでもなく。触れ合えば嬉しそうに微笑んで、そっと寄り添ってくる。最近の彼をみていると、ハルはどことなく不安な気持ちになるのだった。
「できましたよ」
「ああ、ありがとう」
ネクタイをしめ終えたラズワードが、静かに微笑む。やっぱり好きだなあ、なんて思って、ハルは思わずラズワードの頬に手をのばした。ぴく、とラズワードは震えて視線をあげる。そして、するりとハルの手に自分の手を重ねて、すり、とハルの手のひらに頬ずりをした。
「ハル様……んっ……」
衝動的にキスをすれば、ラズワードが声を震わせる。息継ぎの合間に「ハル様、ハル様」と名前を呼ばれて、胸が苦しくなる。
唇を離せばラズワードはとろんとした瞳で見上げてきた。吸い込まれそうなその瞳にハルが目を奪われていると、ぎゅ、とラズワードが抱きついてくる。
縋りつくようなその仕草に不安を覚えたのは、なぜだろう。ハルは強くラズワードを抱きしめて、祈るように目を閉じた。
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