「ただいま帰りました」
「おかえり、ラズ!」
レッドフォード邸につくと、真っ先にハルが出迎えてくれた。少し危険な任務だと聞いていたためか、心配していたらしい。ラズワードの顔をみるなり安心したように笑顔をみせてきた。ラズワードはそんな彼の顔をまっすぐに見ることができなくて、視線を少しだけ落とす。作り笑いで後ろめたさをごまかした。
しばらく、ハルとノワールの会話を聞きながらラズワードは玄関に立ち尽くしていた。結局自分は、最後にはどちらのことを想っているのだろう。
下を向けば、屋敷の天井のライトの光が届かない玄関に、影ができている。その影は丁度、ラズワードとノワールにかかっていた。
「……」
ノワールにつけば、暗闇へ。ハルにつけば、光へ。まるで自分の未来を示唆するようなその影に、ラズワードは二人に気づかれないように嘲笑する。
「じゃあ、お世話になりました。ラズ、シャワー浴びて着替えておいで。今日はもうゆっくりしていなよ」
「……はい」
会話を終えたハルがラズワードの手をひいて、声をかけてくる。光のなかに踏み込んだ瞬間に、ふ、と胸が暖かくなった。……ああ、この人の側は、やっぱり暖かい。そう知っていながらも後ろの暗闇が気になる自分はきっとどうかしている。
「ラズワード」
ノワールが声をかけてくる。
ラズワードは振り向いて、ノワールをみつめた。彼はいつものようにすました顔をしながら、じっと自分をみつめてくる。
「……今回はありがとう。また、会う時まで」
「……はい。では」
ハルの手を握りながら、ラズワードは返事をする。そして、心のなかで彼に言う。
――次に会うときには……俺の答えをきいてください。ノワール様。
_199/270