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そう、あくまでも最後の最後に決めるのは、自分自身。ノワールへの想いが加速している今、ハルの恋人でありながらノワールとの約束を守るという生ぬるい選択は赦されない。ハルと添い遂げるか、ノワールとの約束を守るか。どちらを裏切るのか。
頭が割れそうだ。気持ち悪くなってきて、吐き気すらも覚える。目眩が襲う。
「――う、」
立っていられない。ラズワードはふらりとその場に座り込んだ。支えるようにしてしゃがみこんできたノワールに、ラズワードは縋りつく。ノワールのシャツを握りしめ、ぼろぼろと泣いて、しゃくりをあげながら叫ぶ。
「……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
「……ラズワード」
「待っていてって……そういう約束だった……諦めようとする貴方を、どうしても引き止めたかった……それなのに……! それなのに、俺が……俺が、決断できない……ノワール様……ごめんなさい……」
ノワールを幸せにしたかった。殺してあげたかった。その想いを捨てられなかった。だから諦めようとするノワールを引き止めた。でも、そうするということはハルを裏切ることになるから。最後の決断が、できない。希望をもたせるだけ持たせて、焦らすような真似をしている自分が酷く浅ましい人間に思えた。
「あっ……」
ぐらりと世界が反転する。押し倒された。どさりと背中に、砂浜の熱を感じる。
「……決めるのは、おまえだ。俺は無理強いをしない。でも……おまえが欲しい」
「……、」
「ぐちゃぐちゃのおまえの心を、自分のもとに引っ張るのだけは……赦して。自分のもとに靡かせたい。もう俺は、おまえの幸せを願う余裕が、ないんだ」
ノワールの手が、ラズワードのタイに触れる。結び目に指をかけられたとき――ラズワードは静かに目を閉じた。自分は最低だ――そう思いながら、抵抗しなかった。
するするとネクタイが解かれてゆく。とくとくと脈打つ心臓、あがる吐息。ああ、抱かれる。この人に、抱かれる。自分の心の在処がわからない。
「……は、」
はだけた胸元を、ノワールの細い指がすうっとなぞる。ぴくん、と震えたその身体は、もうノワールを受け入れる準備ができている。ラズワードは目を眇め、自分を見下ろすその人を見上げた。
「……少し前にも、貴方に抱かれましたね」
「……ああ」
「あれから俺、貴方とのセックスが忘れられなくて、何度熱にうかされたか」
「……でもまだ完全にラズワードの心は俺に向いていない」
「……はい」
ノワールの黒い瞳が細められる。影のかかったその瞳は、闇のようで、すさまじいほどの引力をもっている。みつめられたまま、ラズワードは動けなかった。唇を奪われて、びくりと身体が跳ねる。
「……ん、」
「……、」
「あ……、ん……ッ、」
ゾクゾクと身体の芯が震える。下腹部から熱が這い上がってくる。頭がぼんやりとしてきて、何も考えられない。また、キスだけでおかしくなる。ノワールとは、キスをしただけでイキそうになる。まるでこの人のためにつくられた身体なのだと、そう言われているように。ノワールに触れられると、異常なくらいに感じてしまうのだ。
「う……」
「何度抱いたら、俺のことしか考えられなくなる? どれくらい激しいセックスなら、何もかもを忘れられるくらいおかしくなれる?」
「……んっ、……く、ぅ……」
ぐ、と脚の間を膝で刺激され、ズク、と熱が下から脳天を突き抜けた。ぐりぐりと乱暴なくらいにそこを刺激されて、がくがくと身体が震える。
「あっ、……あぁっ……、あ、あ、」
堕とされる。壊される。こうやっていつか自分は……ノワールのもとへ、ひきずられてゆくのだろうか。
「あ、あ……あぁッ……!」
虚ろに宙を見上げながら、ラズワードは甘い声をあげる。乱暴にされて、たまらないくらいに気持ちいい。薄く笑うノワールの表情に、くらくらする。
ノワールの舌が身体を這う。冷たい顔つきなのに、目だけが熱っぽい。氷のような熱さを感じさせる彼の愛撫に、身体は燃え上がるように熱くなってゆく。淡白なようでいて、強烈な情欲がこもっているその触れ方に、ラズワードは溺れてゆくことしかできない。
「あっ……あ……」
自分の身体を舐めるノワールを、ラズワードはちらりと見下ろした。そのとき、ばちり、と目があってしまう。上目遣いにこちらをみつめていた、彼と。前髪の隙間からのぞく、小さな闇。ぞわぞわ、と身体が震えた。目があっただけで下腹部がきゅんと収縮して、びく、と腰が跳ねる。
「ふ、ぅ……ノワール、さま……」
「……力抜いて……身体こわばっている」
「は、い……あ、あぁあ……」
おかしくなりそうで、いつの間にか身体に力がこもっていたらしい。ぎゅっと握りしめていた拳を、ノワールが優しく撫でる。促されて、力を抜いてみれば……ぞぞぞ、と甘美な波が這い上がってきた。ラズワードはぶるぶると身体を震わせて、儚い声をあげる。
下衣を脱がされて、ふとももを掴まれた。ノワールが、ふとももに唇を這わせる。挑発的に目を見つめられて、ラズワードはまた、イキそうになった。
「あっ、あ……ん……」
ちくりと痛みが走る。噛み付かれ、静かに肌に歯がうもれてゆく。唇を離したときにそこに、くっきりと赤い痕がついていて、ノワールがそれをみて目を細めたのをみて、どきんと心臓が跳ねた。
「いいよね、ここに残る痕っていうのは……セックスをした証だ」
「……っ、」
「すっごく……そそられる」
ふ、と笑ったノワールの表情は、相変わらず冷たい。自分のもとへ引きずり込んでやりたい、そんな彼のどろどろとした劣情が、心地良いと思ってしまう。
「ノワールさま……や、ぁっ……ん」
ノワールの指先が、ラズワードの起立したものの先に触れる。細い指で、濡れた鈴口を擦られれば、くちゅくちゅといやらしい音が響いた。とろとろと愛液のように溢れ出るそれが、ペニスを伝い落ちる。
「あっ、あっ……んんっ……」
「腰、揺れてる」
「だって……ぁ、やぁっ……ゆれちゃ、う……」
かくかくと、腰が揺れる。ノワールが意地悪く微笑んで、その様子をみていた。みっともなく脚を広げて、腰を揺らす。みられている。いやらしい自分を……みられている。
「あっ、イっちゃいます……やぁっ、ノワールさまっ……でるっ、でちゃう、やだ、やだぁ……」
「勝手にいくなよ」
「ふ、ぁッ……!? やだっ、離して……」
ぎゅ、と突然根元を掴まれて、ラズワードは達することができなかった。カウパー液だけがたらたらと流れるだけ。イきたいのにイけない。がくがくと震えながら懇願するラズワードを、ノワールは冷たく見下ろしていた。
「一人で、イクなよ」
「あっ……ノワールさまぁ……」
溢れでた液体を指に絡めとり、ノワールはラズワードの秘部を撫で付ける。入り口をくりくりと触られて、なかのほうがきゅうきゅうと収縮した。
「んん……う、ぅ……」
ずぶ、といきなり二本の指がいれられる。ぎゅうっと指を締め付けているのが、自分でもわかる。ぞく、ぞく、と這い上がってくる甘い波に、ラズワードはのけぞって、あられもない声をあげることしかできなかった。
「あっ、……ふ、ぁあッ……」
体が蕩けてしまいそう。内側からあふれだすような快楽に悶えるラズワードを、ノワールが見下ろした。ふ、と微笑むとそのまま唇を重ねる。
「ん、んっ……」
ラズワードの頭を撫でながら、ノワールは甘いキスをした。ゆっくりと、熱を交えるようなキス。快楽のあまりぐすぐすと泣き始めたラズワードをあやすように、角度を変えながら優しく口付ける。
「あっ……ふ、ぁあ……」
その間にも、後孔への刺激は止めない。柔らかくほぐれ始めたそこを指で掻き回す。わざと音をたてるようにして前立腺をぐりぐりといじってやると、ラズワードの脚がびくびくと震えた。
「んーっ……ん、っ……」
勝手にゆれてしまう腰。縋りつくところを求めて腕はノワールの背にまわされる。ラズワードはぎゅっとノワールにしがみつきながら、必死に与えられる快楽に耐えた。
やがてノワールは唇を離して、蕩けたラズワードの表情を至近距離で見つめだす。キスが止んでしまった寂しさにラズワードも目を開けたが、間近で見るノワールの黒い瞳の引力に囚われそうになって、すぐに目をとじる。
「うっ、……あ、ぁあっ……あ、」
「ラズワード……目をあけて」
「や……です、いやです……やだ……」
「あけて。俺、寂しいよ。ちゃんと俺のことみて」
「……っ」
誘導されるようにして瞼をあければ、視線がぶつかった。その瞬間、ぞくぞくと強烈な快楽が身体を突き抜ける。
「あっ……あっ……」
びくんびくんとラズワードの身体が跳ねる。それでもノワールは指を止めなかった。ぐいぐいと指を押し込むようにして、ラズワードのいいところを刺激する。
「ふ、ぁ……だめ、だめだめだめ……あっ、イク、だめ、のわーるさま、イッちゃう、イッちゃう、イク、イク、あっ」
「イッていいよ。ちゃんとラズワードがイクところ見ていてあげるから」
「やっ、あ、あ、あ、あ、くる、くる、イッちゃう、だめだめ、あ……」
吐息が交じり合う。ぐずぐずに泣きながら達するラズワードを、ノワールは微笑みながら、黙って見つめていた。冷たい瞳に見下されながらイクと、断続的に絶頂が訪れてきて、身体の震えが止まらない。もう刺激をやめてと目で訴えても、ノワールはそれを無視して指を動かし続ける。せめて、と視線をそらしたくて首を動かそうとすれば、後頭部を掴まれてそれは叶わない。
「あっ、あっ、あー……、あ、あー……あ、あ、あ、」
がくがくと身体を震わせるラズワードから、ノワールが指を引き抜いた。そして、ぐ、と強く太ももを掴む。
「あ、あ……」
熱が、秘部にあてがわられる。もうそれだけで、ラズワードのそこはノワールのものに吸い付いて、はやく挿れて欲しいとせがみだす。いりぐちがきゅうきゅうと動いているのを感じ取って、ノワールは薄く笑った。
「ほら、せがんでみて。挿れて、って言って」
「は、……あ、……いれ、てください……」
「もっと、いやらしく」
「あ、……いれて、……お願いいれて、のわーるさま……! おれのなか、ぐちゃぐちゃにかきまわして、おかしくして……!」
ノワールの目が細められる。「いいこ」そう言って彼が微笑むと、視界がくらりとまわった。どくん、と心臓が高鳴る。はやく、はやく。この人にめちゃくちゃにされたい。ラズワードのなかで熱が暴走してゆく。頭がおかしくなる。
「あ、あ、あ、」
ノワールがなかにはいってくると、ラズワードは顔を蕩けさせて甘い声をあげる。じりじりと熱が迫ってきて、そして一気に奥を突き上げられた。ズクン、と重い熱がなかで弾けて、そこからじわっと甘美な波が広がってゆく。
「あぁっ……」
すごい。すごいすごい。抽挿がはじまると、ラズワードは一層甲高い声をあげて身体を震わせた。奥を突かれるたびに、いいところを擦り上げられるたびに、びくんっと大きく身体が跳ねておかしくなりそうになる。まるで身体が自分のものではないようで。快楽に支配された身体はもう、いうことをきいてくれない。
「あぁっ、はぁっ、ん、んぁっ、あっ」
ラズワードはうっとりと顔を赤らめながら喘いだ。きもちいい、きもちいい、すごい、すごい、飛んじゃう。ぞく、ぞく、とノワールの動きに合わせて迫り来る快感にラズワードはすっかり虜になっていた。
「ほら、もっと深いの……しようか」
「あっ、はぁっ……ん」
ぐ、と身体を引き寄せられて、ラズワードはノワールの上に乗る。所謂、対面座位。急にずぷっ、と奥に入り込んできた熱に、ラズワードは弓なりになって声をあげる。自分の体重でどんどんノワールのものが奥にはいりこむ。ぎゅう、と渦に引き込まれるような快楽に、ぞくぞくと身体が震えた。
「あ、あ……」
「思いっきり……突いてあげる」
「あっ……! はぁっ、ああぁっ……! ふかい、ふかい、……すごい、おく、くる……! あぁ、ん、……ふ、ぁっ、はぁん……」
がく、と身体が揺さぶられた。ノワールが奥を突き上げてくる。ズンズンと凄まじい熱が下から這い上がってきて、ラズワードはたまらず首を振った。おかしくなる、やばい。思わずノワールにぎゅっと抱きつけば、彼の首筋から彼の匂いを感じ取ってしまって、ぎゅうっと胸が締め付けられる。そうするとなかがきゅんっと締まって、びくっと腰が震えてしまう。
「ぁんっ、だめ、あぁっ、すごいっ、だめ、だめぇ……あぁ、いい、すごい、いい、……」
「ラズワードも、腰振って」
「むり、こし、くだけて、だめぇ……」
「仕方ないな、じゃあ俺が思い切り奥を突き上げてあげるよ」
「ふぁっ……! あぁ、ああっ、あっ、いくっ、いくっ、あ、あ、あ、いっちゃう、だめ、あっ、いく、いくいくっ、あっ」
ズンッ、ズンッ、強烈な重い快楽。ノワールの背に爪を立てて必死にしがみついて、意識が飛びそうになるのを我慢する。頭のなかに白い火花がぱちぱちと飛び散って、狂ってしまいそうになる。
がしりと頭を掴まれて、唇を重ねられた。乱暴でどこか優しいキスに、酔ってしまいそうになる。犯されて好きにされてしまっている感じがたまらない。それなのにキスが甘くて、もう壊れてしまいそうになる。
「んっ、ふ、んんっ、」
涙と唾液でぐちゃぐちゃになりながら、ラズワードはノワールとのキスに夢中になっていた。
もう、だめ。がくがくと身体を揺さぶられながら、ラズワードは全身でノワールに抱きつく。身体がノワールに密着して、暖かくて気持ちいい。少し細い彼の体も、こうしてしがみつけば筋肉があるということを感じ取れて、ほっとする。
ぎゅう、っとラズワードの中が収縮し始めると、ノワールは唇を離してしまった。とろんと寂しそうな目でラズワードが彼をみつめれば、その顔にふ、とほほ笑み浮かべる。
「……イきそうだね、ラズワード」
「……ぁっ、……はい、いくっ、……いき、ます……はぁっ、ん……」
「イクとき俺の名前呼びながら言ってよ……ラズワード」
「……っ、」
ドス、と強く奥を突き上げられる。ラズワードは目を見開いて、大きな嬌声をあげた。それを皮切りに、ノワールは一気に強くラズワードの身体を揺さぶり始める。
「あぁっ、はぁっ、ん、あっ、あっ、あっ、あんっ、ふぁっ、あぁっ」
「名前、呼べ」
「あっ、のわ、るさま……あぁっん、のわーるさま、んっ、はぁっ、のわーるさま!」
ズンズンと思い切り突かれ、ラズワードは身体を捩り、髪を振り乱し、涙を流しながら甘い声をあげる。ノワールの名前を呼びながら感じていると、もう自分が彼のものになってしまったような錯覚を覚えて、わけがわからなくなる。
「のわーるさまっ、のわーるさまっ、ああぁっ、のわーるさま……!」
びくびくっ、と身体の芯が震えだす。きゅうーっと下腹部が何かに引きずり込まれるような感覚を覚えて、ラズワードは硬直する。強い締め付けにノワールは目を眇めながらも、ラズワードの絶頂の兆しに唇の端をつりあげた。
「あぁっ……! のわーるさまぁ……!」
ぴゅ、ぴゅ、とラズワードのペニスから白濁が溢れだす。がたがたと震え、ノワールの名を呼びながらラズワードは達してしまった。ノワールはそんなラズワードをみて微笑むと、精液を出しながらイキ続けるラズワードに、優しくキスをする。
「んんっ……」
甘いキスに、ラズワードは顔を蕩けさせた。イキながらノワールとキスをして、もうおかしくなってしまいそうだった。ぎゅっとノワールに強く抱きついて、ラズワードはキスを請うように自ら唇を擦り付ける。
「はぁ……ん、ん……ぁ、ん……」
自ら腰を上下にゆるゆると動かしながら、ラズワードはノワールに縋り付いた。絶頂の余韻にうっとりとしながら、キスを堪能する。ちゅ、ちゅ、と小鳥のようなキスから深く舌を絡め合うキス。求めるままに、二人はキスに溺れてゆく。
「んっ……」
ぴくん、とラズワードが震える。なかで、ノワールが精を吐き出したのを感じたからだ。なかで震えるノワールの熱に、ラズワードはぴくんぴくんと小さく身体を痙攣させて、よがりだす。
「あぁ……のわーるさま……ぁん……のわーるさま、のわーるさま……」
目を閉じて、なかに出されてゆくのを感じ取る。どく、どく、と震えるそれを自分の鼓動のようだと思う。一体になっているような心地。一緒にぴくっぴくっと震える身体。身体も心も満たされてゆく。
「のわーるさま……んん……」
もう一度、ぎゅっと抱きついた。全て出されても、まだひとつになっていたかった。きつく抱きしめ返されると、もうずっとこのままでいたいと思ってしまった。
「……ラズワード、気持よかった?」
「きもちよかった……すごく、きもちよかったです……すごく、かんじちゃって……おかしくなりそうだった……」
「……じゃあしばらく俺のこと、忘れられないね」
ふ、とノワールが笑う声にまじって、漣の音が聞こえる。ノワールの首筋から香る彼の香りと一緒に、潮の匂い。
……ああ、きっとこの海とノワールの熱を忘れられないで、しばらく魂の抜けたような日々を過ごすことになるのだろう。
「ノワールさま……」
……俺の本懐は……どこにあるんだろう。
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