「浅葱……浅葱、でておいで、どうしたの?」
「なんでもありません、お母様、少し具合が悪いだけです」
「あら、それなら熱を計らなくちゃ……計ってあげるから、入ってもいい?」
「あっ、あの……大丈夫、おとなしくしていますから……お気遣いなく……」
その日、少年は家の自室に引きこもっていた。心配した筑紫が声をかけてきたが、彼女には会いたくなかった。
……ここ最近、少年は筑紫と顔を合わせていない。少年が一方的に彼女を避けているのである。
「……」
――自分は、今まで何人殺した?
殺さないでほしいと訴える人の命をどれだけ奪ってきた? この体にどれほどの返り血をあびたというのだろう。
みられるわけにはいかない、触れるわけにはいかない。あんなに美しい人に、こんな人殺しの自分が――
「……僕は、」
なぜ、こんなことをしているのだろう。なぜ人を殺さなければいけないのだろう。
少年は部屋に散らばる大量の本を見渡す。最近は魔術書だけではなく、経営学、帝王学……さまざまなジャンルに渡る勉強をさせられている。この知識がなんの役にたつというのか、なぜ人殺しの技術を教え込まれているというのか。
「……」
ふと、一冊の本が目に留まる。施設の頭「ノワール」について記されたもの。今まで「ノワール」の座についたものの記録などが事細かに載っている。
「……まさか、」
今までのノワールたちの記録を見ていくうちに、少年はひとつの答えを導いてしまった。
――自分は、「ノワール」になるのだと
_145/270