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(いやいやありえないでしょ……!)



ラズワードと剣を交えてから約1時間。ハルはラズワードにかすり傷ひとつつけることすらかなわなかった。

ラズワードが強いというのは重々承知だったが、強さにも限度があると思っていたハルは、そのあまりの強さにただただ驚いていた。たしかに、クビ寸前まで落ちたハルのハンターの点数を屈強のハンターたちを押しのけて短期間でトップまで押し上げたのだから、異常な強さではある。しかし、ハルも忙しくなる前まではトップに近い成績を残していたほどには戦闘能力がある。ここまで強さに差が生まれるとは、夢にも思っていなかったのだ。



「ら、ラズ……なんでおまえそんなに強いの……」

「……バガボンドとして我武者羅に戦っていたっていうのもありますけど……うーん、やっぱりノワール様に戦い方を教わったからでしょうかね」

「……ノワール?」



愛する恋人の口からでてきた、忌まわしき男の名前に、ハルは過剰に反応する。思わずラズワードの表情を確かめてしまったが、ラズワードは特に顔色を変えることもなく、淡々と彼について語る。



「あの人は……幼い頃からずっと過酷な戦いを強いられて、何度も何度も死線をくぐってきた人ですから、俺達が思っているよりもずっとずっと強いんです。ただの「ノワール」じゃない、あの人は類まれなる才能と、常軌を逸した努力によって異常な強さをほこる特別な人です」



ラズワードがびっと剣を振るう。そういえばラズワードの剣技はノワール直伝のものだったと思いだしてハルは表情を歪めた。ラズワードと両想いになって、そしてずっと幸せな時を過ごしてきたというのに、それでもまだノワールに嫉妬している自分を情けないと思ったのだった。



「……ノワールを、殺すんだっけ? 本当にできるの? 強いんでしょ?」

「……できるできないかなんて知りません。やります」

「でも、あんまり、無茶は――」



いいかけたところで、ハルは口を噤(つぐ)んだ。ラズワードがものすごい勢いで剣先を首元に突きつけてきたからである。唖然と黙り込んだハルを見つめるラズワードの目はどこか挑発的に光る。



「そんな保守的な考えでは道は開けない、いいですか……男ならいかなる時も、攻めの姿勢でなくてはいけないんですよ」

「……っ」

「ハル様も男なら、攻撃的に生きてみましょう? 大丈夫、俺は死ににいくわけではありません。心配しないでください」

「……ラズ」

「……そういうわけで、ハル様には何が何でもレヴィ様に勝っていただかないと困ります。俺の主なんですからね」



攻めは最大の守り、ラズワードはその観念を貫くタイプなのだと自分の中で納得してしまってハルは何も言い返せなかった。おまえのそれは、どこか危なっかしいのだと、それはなぜか言えなかった。

ともあれ、レヴィに負けたくないという考えはハルも同じ。もしもレヴィに負けてしまえば、ラズワードの側にいられなくなるかもしれない。目の前のラズワードの扱う剣技がノワールに与えられたものだと思うとどうにも気が散って仕方ないが、ここは彼を師としてしっかり特訓に励まなければいけない。



「……まだ、その日まで時間はある、しばらく、ラズ、付き合って」

「ええ、もちろんです」



スピアを振るう。雑念を、払うように。

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