「わあ、すごいですね、ここ……!」
少年が筑紫に連れられてやってきたのは、辺り一面に百合の花が咲き誇る「女神の海」という花園だった。家族連れや恋人で賑わうそこに、少年はきょろきょろとしながら入っていく。
「浅葱、こっちを向いて」
「はい、あっ……まぶし、なんですか」
「ふふ、浅葱、貴方、百合の花がとても似合うのね」
筑紫はカメラを持って笑っていた。白い百合の花の中に、筑紫が立っている。青空をバックに、美しい着物を着て微笑む彼女に、少年は思わず目を奪われた。
「この花の花言葉を知っているかしら」
「えっと……僕、花はそんなに詳しくなくて……」
「『純粋』っていうのよ。ねえ、浅葱」
筑紫が少年に近づいてきて、しゃがみこんだ。そして、そっと抱き寄せる。
「……私はね、ずっと貴方にこのままでいて欲しい」
「……?」
「ずっと純粋なままで……優しいままで。私は、貴方に幸せになってほしいの」
「お母様……?」
さっと風が吹いて、百合の花弁が舞い上がった。少年はぼうっとそれを見上げる。ふわりと鼻を掠める筑紫の髪の甘い香りに、少年はふっと目を閉じて、彼女の背に手を回した。
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