「……遅かったね、ちゃんとデータとれたのか?」
「ええ、もちろん。ばっちり」
ハルのもとにもどると、彼はちらりとラズワードとリノのことを見比べた。わずかに乱れたラズワードの襟元をみて、ハルはじろりとリノを睨みつける。
「……おまえ、ラズに手をだしたな」
「データをとるためだよ」
「嘘つけっ! おまえくらい力があれば集中すればなんだってできるだろ! わざわざセクハラなんてしなくても!」
「わーい! ハルさんに褒めてもらっちゃった! こりゃレッドフォード家のコネをゲットできるな〜」
「うるさい黙ってろ! ラズ、大丈夫なのか!?」
ハルはリノを押しのけると、ラズワードの肩を掴んで詰め寄った。緩んだタイのせいで襟がわずかにはだけ、鎖骨がちらりと見える。ハルはぎょっとして一瞬目を逸らしたが、すぐに向き直ってタイを直してやった。
「だ、大丈夫です、ハル様……そんなにひどいことされてません……」
「その子僕にエッチなことされてイッちゃったよ〜」
「りッリノさん……!」
「あぁ!?」
かぁっと顔を赤らめたラズワードをみて青ざめながらハルはリノに殺意のこもった眼差しを向けた。慌ててハルを引き止めながらラズワードは叫ぶ。
「まってください……、待ってください! ハル様……!」
「なんで! リノがどうせまた無理やり変態じみたことやってきたんだろ」
「ち、違うんです……ほんとうに、ただデータをとるためだけにリノさんはやったんです……ただ、俺が……俺が、」
「え、……」
「……ごめんなさい、ハル様……」
「え、ちょ、なに? なんで謝られてるの、俺」
ぎゅっとハルの服の裾を掴んで消えそうな声で謝ってきたラズワードにどうしたらよいのかわからなくてハルは押し黙る。耳まで赤くして、震えた手でハルを掴んで、そして顔を隠すように胸元にすがりついてきたラズワードに、正直ハルはドキドキしていた。ただ、ラズワードが言わんとすることがわからなくて、なんと声をかけたらよいのかわからない。
「ラズワード君、あれだよね、自分の体がえっちすぎて罪悪感覚えてるんでしょ〜」
「あ、あんまり大きな声で言わないでください……」
「ハルさん羨ましいなァ〜。こんなに感じやすい恋人いたらえっち楽しいでしょ〜」
「……、」
恥ずかしさのあまり黙ってしまったラズワードを、ハルはとりあえず抱きしめる。周りで好奇心丸出しで見てくる外野のことが気になるが、自分にすがりついてくるラズワードのことを突き放すわけにもいかない。
……と冷静を装ってはいるが、ハルは内心今にもラズワードのことを押し倒してやりたかった。
(リノにイかされた? どうせまた変な魔術とか使われたんだろ? どんなことしたんだコイツ、ラズにどんな……あー、絶対かわいいよなぁ、イきたくないって言いながらイッちゃうラズ絶対かわいいよなぁ……ああ、俺最低だ……)
リノに悪気がないということをわかっているからこその妄想だったが、ハルは自分の妄想が不謹慎に思えて黙っていた。ラズワードが罪悪感を覚えているというのにこっちは呑気に妄想しているのだから、さすがにハルも自己嫌悪に陥ってしまう。
「ら、ラズ……大丈夫だって、こいつ変な魔術得意だからさ、しょうがない」
「……でも、」
「あ、ハルさん!」
浮ついた慰めをするハルに、リノが後ろから声をかける。そして、ラズワードからは見えないように紙袋を差し出してハルに囁いた。
「こういうときがチャンスですよ」
「な、なにが」
「お仕置きプレイ」
ハルは恐る恐る紙袋を覗きこんで、思わず変な声をだしそうになった。あんぐりと口を開けながらリノを見つめるハルに、リノはウインクをする。
「絶対かわいいですよ〜。今日の夜が楽しみですねぇ〜」
押し付けられた紙袋を持ったまま、ハルは固まってしまった。そして、紙袋の中身とラズワードを見比べて口元をひきつらせる。
「ハルさーん! はやく仕事してくださーい!」
「その可愛い子はこっちにちょうだい! 私もその子のエロい声聞きたい!」
「いや俺が科学的視点からその彼の身体のどこが一番敏感なのか調査する、だから俺が」
「そんなまどろっこしい理由いらないからさ、全身拘束して気絶するまでイかせよ、絶対超かわいい」
「おまえら黙れ! ラズは俺の御付きだからな! 俺のサポートしにきたの!」
声はひっくりかえる寸前だった。紙袋の中身の、大量の玩具から目をそらすのでいっぱいいっぱいだった。
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