次富

*大学生パロ

その日、彼は酔っていた。次から次へと注がれていくお酒を流れるように、それも俺の目を離した隙に飲み干してしまったのが悪かった。

作兵衛がお酒に弱いのは、飲み始めた頃からわかっていたこと。だけど、負けず嫌いな作兵衛はそれを恥ずかしい事のように隠そうとする。だから、注がれた酒は意地でも飲むし、異常な虚勢を張る。それが心配でしょうがない俺は、幼なじみの特権を使っては作兵衛が行く飲み会に混ざり込み保護者のように目配せをしていた。
それなのに、今日は失敗した。誰も弱いなんて思わないものだから、作兵衛は周りの雰囲気に飲まれ早いペースで飲んでしまっていたんだ。俺が気が付いた時には作兵衛は朦朧とした視線でこちらを見ていて、素早くその手をとって、言い訳もそこそこにその場から離れた。


「ほーら、作着いたぞ」
「おー」

手慣れた扱いで、作兵衛のカバンから鍵を出してドアを開ける。電気のスイッチが何処にあるかも、廊下の長さも、何が何処にあるのかも自分の家より知っているかもしれない。大学生の、それも男の一人暮らしなんてそう物だってあるもんじゃないのだから、何度も訪問すれば誰だって把握出来てしまうだろう。

「じゃ、俺帰るから。ちゃんとベッドで寝ろよ」

玄関前でそう言ったのは自制心を保つ為だった。なのに、ふり返り扉の取っ手を掴んだところで小さな抵抗が俺を引っ張る。
左の袖口、ちょこりと摘まれる程度の場所をきゅ、と握られていた。誰に。作兵衛に。

「さく、」

続く言葉は視線をあわせれば飲み込まれてしまっていた。頬の紅とか、恥じらって伏せた瞳、さらに握り込まれていく指先が俺を離さない。酔っているんだ、作兵衛は。でなければこんな事起こるはずがない。それに彼は知らない、俺の覚悟も俺の想いも。

「泊まって、けばいいだろ」
「…いいよ、まだ電車あるし」

違う。そういう作と二人でいて何もしないでいられる自信は俺にはない。年齢的には大人に分類されるかもしれないけれど、気持ちの制御が上手くできるわけではない。近くにいたいのに、それは辛い事だって今は多い。だけど知らないうちに、自分の知らない作兵衛になられるのはもっと嫌だから、決めたんだ。ずっと大事な幼なじみでいようと。

「いいから、」
「何が?」

いいわけない。どんな事があっても俺は作兵衛だけには嫌われたくないんだから、危ない橋は渡らないのが俺の為であり、作兵衛自身の為だ。きつめの言葉も明日になればきっと忘れてくれる。

「何って…別にお前何度も来てるんだし、明日休みだろ」

やめろ。やめてくれ、頼むから。
無防備なところを俺だけに見せてくれるのは、いい。だけど、時と場合は考えて欲しい。静かな夜で、緩みきった見上げる視線は俺を誘っているようでしか見えない。

「作は知らないだろ」

いいんだ。そのままで、保守も俺にとって失うことより幸せだから。
だから、その手を離して。

「…知ってる」

見上げられて見開いたつり目何をとは言わなかった。だけど、何か壊れる音がしたのは確かで、ドアノブを握った片手が自らひねる事はなかった。

つぎとまで、服のはしっこをちょこんとつまむシーンを描きます。



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