小話04

※次♀富夫婦+3ろな三つ子
【以下参照】
母の呼び名/父の呼び名
三之助:さんちゃん/さの
作兵衛:さぁちゃん(♀)
左 門:さっちゃん/さも


「小話03」の夫婦のその後

***

小さくて穏やかな寝息が三つあることを確認して、優しく優しくその戸を閉める。
外出した今日は、可愛い三つ子も疲れてくれたようで、いつもよりすんなりと床についてくれた。不定休で時間帯もばらばらの仕事だけど、終われば直帰する俺だから、一般的に比べれば、家族と一緒の時間は長い方だと思う。もっと増えてくれても、俺とすれば嬉しいが、これでも誇りを持ってやっている仕事で、生活するためには必要なことなので文句を言える立場ではないけれど。まぁ単なる幸せのジレンマ。

「寝たの」

声に振り返ると、お風呂上りのさくがいた。乾かない髪をタオルでぱさぱさと撫で、こちらを見上げる。いつ何度見ても可愛い自分の妻だと、表情が緩む。

「髪、乾かしてあげる」
「え、いいよ。自分でするから」
「いいからソファー座ってて、ドライヤーとってくる」

ソファーに座るさくの後ろに立って、近場のコンセントからぎりぎりのコードのドライヤーを駆使して髪を乾かす。ショートボブに切られた髪は思ったより乾くのが用意で、時間はかからなかった。ふわふわで熱を持ち、自分と同じシャンプーの香りがまだ強く香る。ドライヤーを投げ出して、ソファーとさくの間に体を滑りこませれば、容易に抱きしめる事ができる。
肩口に鼻先を擦り付ければ、くすぐったそうにさくは身をよじるが、逃げようとはしない。

「さーくー」
「なに」
「他にしてほしいことある」
「なに、三之助。急に」

さくは自分でなんでも出来ると思っている節がある。やれば出来ないことはない、というのはとてもいい心がけだけれど、本当に困らないと俺に声がかからないのも少し寂しい。解っているからこそ、俺は目を凝らして、さくを見ているわけだけれど。それが悪循環になることもしばしば。
今日の公園での出来事もその一つ。
ただの、そうゴミ箱に捨てられるゴミと同じで、それは必要最低限の価値にしかならない。しかし、俺とさくが出会ったように、偶然で必然になる可能性は未来にしか証明することができない。出る杭は叩いてしまわなければ、いつか忘れたころに、という可能性もゼロではない。
これは単なる幼稚な嫉妬心。
さくが俺を、可愛い子どもたちを、簡単に裏切ることはない。もちろん信頼はしている。それでも、嫌だと思う。たとえ、さくの眼中に入らなくとも、俺と同じような思いを少しでも持ってる奴がいるだけで嫌だった。

「じゃぁ、一緒に寝ようか」
「え」

さくの疑問に濁り音を返していると、思いついたようにさくは言い、今度は俺が疑問符を浮かべた。一緒に寝よう、と言われても、俺たちは当初から変わらないキングサイズベッドで、ほぼ毎日のように肩を並べて寝ている。

「そうだなー、枕を寄せて、手も繋いで」

さくは足軽に立ち上がり、両手を握り俺の体を引く。連れられるままに、俺はベッドルームへ連れ込まれ、布団に入る。間隔のあけられていた枕はぴったりと寄り添い、俺より少し小さな手が、俺の手を握る。

「初めて一緒にベッドに入った時は、緊張しててあんまり覚えてないんだ」

握りしめた手を見ながら、さくはふと口を開く。三之助は、とまだ暗さに慣れない視界にうっすらと浮かぶさくの顔はよくわからない。

「俺は覚えてるよ、あんなに身体が言うこときかなかったことは、その時までなかったし」

何回も抱きしめた身体だった、頬にだって髪だって、唇にだって触れ合ったことはあった。だけど、その背景が違うだけで緊張が這い上がっていく。下心が叶う手前の事だった事もあっただろう。しかし、それでも焼きついた記憶は今も確かにここにある。

「二回目もちょっと戸惑った。そのあとも、あたしはちっとも上手に寝られなかった。ぎこちなくて、でもそれでも一緒にいたかった」

過去の自分をおかしそうに作は小さく笑う。その額に俺は唇を落とし、愛しさを伝えると落ちそうだった瞼が開き、瞳がこちらを捕える。

「今はね、もちろん緊張なんてしない。むしろ、こっちの方が安心する。三之助がいるなーて思うと心地いい。だから、三之助は今でも家大好きだと思うけど、もっと帰りたくなるように、うん、いつまでもそうあるように。いい時間重ねて行けたらいいなぁ」

だんだんと重力に従いさくの瞼は落ち、声のトーンも低く小さくなっていった。

「ホントに、してほしいことより、歳とっても、出来る限りでいいから、同じように。こうやってたまに手繋いで寝てみたり。思い出話してみたり。同じ時間をね。そういうのは、きっと、三之助じゃなとできないって思ってる、から」
「うん」

空いた方の手でさくの前髪を撫でつけると、声はゆっくりと寝息にすり替わっていった。
出会って10年以上も立てば、いいことも悪いことも含めて、思い出は数えれないほどある。語りつくすにはもしかすると寿命が足りないかもしれないな、なんて思った。それにこれからも確実に増えていく。
眠気のうたたから浮かぶ思い出がやたら優しく感じて、俺の持った嫉妬なんて些細な事だなんて思えはじめてくるから不思議だ。言いはしなかったけれど、さくは何か感じとってしまっていたんだろうか、それとも女の勘ってやつだろうか。
俺の狭い視界でもさくのすべてを取り込もうと思えば、やたら求めてないものまで入れてしまう。でもきっとそんなものに目がいってしまったら、大事な大事な、本当に大事なものを見失ってしまうかもしれない。俺の許容範囲はずっとずっと狭く、対応できる幅も狭い。だったら、それをフル活用して何をするかなんて最初から決まっている。

大好きで愛しくてしょうがないさくと、求めてやまなかった可愛くてしょうがない子どもたち、俺の家族を幸せにすること。

我ながら立派な答えだ、と頷きながら、小さな手をもう一度握り返して、俺は今日の俺とさよならをした。


「さよなら嫉妬心」


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