小話01

※次♀富夫婦+3ろな三つ子
【以下参照】
母の呼び名/父の呼び名
三之助:さんちゃん/さの
作兵衛:さぁちゃん(♀)
左 門:さっちゃん/さも

***

小さな物音で起きるような神経は持ち合わせていないのだけど、その日は少し違っていた。自然と視界が開けると同時に目が捉えられないうちから、目の前に誰がいるのかわかったのは慣れた匂いが香ったからだった。

「ごめん、起こしちゃった?」
「ん、何時?」

6時前だよ、と身支度整えた三之助がベッドの傍らから私の顔を覗く。寝起きに優しい指先が私の瞼に落ちてとても心地よい。

「プレゼント置いておいたから、起きたらメール頂戴」
「うん、行ってらっしゃい」
「行ってきます」

いつまでも変わらない愛しみのある柔らかい口づけを残して、三之助は少し早く仕事に行った。今日はロケひとつと取材ひとつって言っていたから、きっと夕方までには帰宅するだろう、と思いながら私は一人分開いた布団にもぐりこんだ。

***

再びに目が覚めたのは、ふわふわとして鼻にくすぐったさを感じた時。
あまりに視界の許容範囲を超えてぼやけた物体に少し驚き、起き上がるとベッドわきを這い上がるぬいぐるみ。それも並んで3体がふわふわと揺れながら押し上げられている。その一つを手にとって持ち上げると、案の定ぬいぐるみと変わらぬ大きさの我が子が一人。

「さーささん!さーささん!きた!いいこ、さもん、いいこ!」

元気な声で大きな瞳をいつも以上に輝かせて長男のさもんが言う。
ぬいぐるみをとりあえずベッドに上げて、残りの二つのぬいぐるみもベッドに上げると、長女のさくらと二男のさのすけが、これまたさもんと同じようにぴょんぴょんと元気にはしゃいでいた。

「ままーさぁーちゃん、いいこ!さーささんきた!」
「おれもーおれもー!さーささんきた!みて!」

床から大人の膝よりも低い高さのベッドには三人共上がれるようになり、よじり乗ってサンタさんがプレゼントをくれた事を私に報告する。

「よかったねーさっちゃんも、さぁちゃんも、さんちゃんもいい子だもんね」

一人一人撫でると幼いながらも満足げな顔をする。毎日が成長で目を見張るほど大きくなるものだから、見逃してはいないかといつも思ってしまう。それも一人ならまだしも三つ子で生まれてきたこの子たちだからこそ、一層そう思うのかもしれない。
プレゼントは三之助が早々と悩みはじめて、準備に余念がなかった。そんな話を母や義母に漏らすといつのまにか父たちにも伝わり、我こそはサンタさんになろうとプレゼント対決を初めてしまったくらいだった。
もう手が付けられないとなった頃に、義母が提案したプレゼントでなんとか納得し、そして今形となって三つ子たちのもとにさーささんが無事に届ける事が出来た。
三之助が準備した子どもたちと変わらぬ大きさのテディベア、それが背負う義母が作ったリュックサック、その中に母が選んだ服、父が作った積み木、義父が用意したボール型のビーズクッションが入っている。ちなみに義父はボールを買う予定だったらしいが、いろいろな意味で危険だったので義母がそっとクッションに丸め込んでくれたらしい。
まぁそんな大人の事情はさておき、喜んでいるのだから大成功。
いい子にしてるとサンタさんが来る、とこの一か月、三之助が子どもたちに言い聞かせたのが充分に伝わっているな、と思い数時間前の事を思い出してベッドの上側の棚に置いた携帯に手を伸ばした。

「あ、」

小さな手のひらに収まる白い箱に赤と緑のリボンが結ばれいた。
子どもたちも気が付き、さーささん、とまたはしゃぐ。

「まま、いいこ!さーささんきた!」
「なーになーぁに」

三つ子の熱い視線を受けながら、その箱を開いてみると折りたたまれた紙。手紙が入っていた。物が入っていると思っていた三つ子にとっては、理解しがたいものだったらしく、すぐに自分たちのプレゼントに行ってしまった。
その小さく小さくたたまれた手紙を開けてみると、久しぶりに見た三之助の字。正直お世辞にも綺麗な字とは言えない、中高生のノートの字に近く、傾きぎみの字。

『いい子なさくちゃんへ

メリークリスマス。
今年は夕方くらいに行きます。
それまでに忙しいでしょうが、家事を出来るだけ済ませてください。
三人の元気な子供たちはしっかり遊ばせてください。
(早くにぐっすり眠れるように)
それから、美味しい晩ご飯を作って待っててください。
夜はいっぱいいっぱい甘えて、甘えさせてください。

さーささんより』

正直バカだなと思う。
だけどそれ以上に、バカなさーささんもとい我が旦那様が好きなのだからしょうがない。そっと手紙は元の箱に納めて、携帯電話を手に取る。

「ぱぱにメール送るよーこっち向いて」

ぬいぐるみに好き好き戯れる子どもたちに声をかけて、携帯電話のカメラを向ける。もう慣れたものでちゃんとそこに目線を向ける三つ子。三人同時に画面に納めて、メールに添付して、我が家のさーささんに送った。

カーテンを開けると結露した窓、今日は寒空の下頑張っているのだろう。
そして、いつも以上に浮かれ混じりの緊張感を覗かせて帰ってくる。そんなサンタさんにいつも以上の気持ちを込めて暖かい食卓とプレゼント返せるように、緩む頬を引き締めてベッドから立ち上がった。


「サンタクロースの寝床」



prev/next



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -