「小春ちゃん、心配しなくても大丈夫だよ? 何かあったら樹くんが助けてくれるからね?」
「……え?」


掛けられた言葉の意味がよく理解出来ず、小首を傾げる。

(あれ、そういえばさっき……)

樹さんが、世話してやるって言っていたような。
世話してやる、セワシテヤル、せわしてやる――『世話してやる』!?


「私、ここで暮らしてもいいんですかっ!?」


勢い余って、真上にあった樹さんの顔とぐっと距離を詰めて尋ねた。


「さっきそう言っただろ!? 二回も言わせんじゃねぇ!!」
「ほんとですか!?」
「うるせぇな本当だよ!! 本当だ!! いいから離れろっ……!!」


空いている方の手で私の身体を何とか遠ざけようとする樹さんを余所に、歓喜する私。
満足気に微笑んだマスターは、静かに一歩後ろへと引いた。


「さて小春ちゃん。生活に必要な物は揃えておいたから、足りない分は自分で買ってね。さっき色々説明したけど、他に分からないことがあれば樹くんに聞くんだよ? 誰に聞いても分からなくてどうしようもなくなったら、僕のところへおいで?」

「え? わ、わかった」


私はぴたりと動きを止めて、顔だけマスターの方を振り返った状態で小さく頷いた。
つられたように停止した樹さんもまた、同じ方向を見つめる。
二つの視線を受け止めるように向き直ったマスター。


「樹くん、小春ちゃんを頼んだよ? ちゃんとお世話してあげてね?」
「お、おう」


少し戸惑いつつ返事をする樹さん。
マスターはもう一度私と樹さんを見て、それからサーカスの幕開けを宣言する道化師のように優雅に腰を折った。


「それじゃあ皆さん、ごきげんよう!」


瞬きした次の瞬間そこに残っていたのは、マスターがぱちんと鳴らした指の音だけだった。



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bkm

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