「ほら、小春ちゃんは元々細い方だし……」

優しい手つきで引き寄せられた腰。うわっ、と色気の無い声が漏れる。

「ご覧の通り警戒心も薄いし……」

どこかわざとらしい口調で私の耳にそう囁きながら、ちらりと樹さんを見たマスター。


「もしかしたら、変な奴らに襲われちゃうかもねぇ」
「ち、ちょっとマスた――」


縁起でもないこと言わないでという声を掻き消すように、別の言葉が被せられた。


「わーったよ! 世話すりゃいいんだろ!?」


言い終わった流れでそのまま、横からぐいと腕を掴まれる。
腰に当てられていたはずの手はあっさりと解かれ、私の身体は掛けられた力のまま声の方へと引っ張られた。


「お前もされるがままになってんじゃねぇ!」
「い、樹さん!?」


頭上から降ってきたのは、怒声。
え、今何が起こったの? と考えている間にも会話は進んでいく。


「アンタに任せる方が危ねぇってことは理解した。飢え死にされんのも気分わりぃし、自警団の人間として放っておくわけにもいかねぇ。元々そういうのはうちの管轄だしな。暫くは面倒見てやる」

「おお、流石樹くん!」
「一応言っとくが、『暫く』だからな! 次が見つかるまでの仮契約ってのを忘れんじゃねぇぞ!」
「何だかんだ言って優しいよね」
「うるせぇ!」


相変わらずの大仰な仕草で喜びを表したマスター。
一方の褒められた側は全く嬉しくなさそう――というか、完全に睨みつけている。
「あはは、怖いなぁもう」なんて火に油を注ぐような発言に、何故かこちらが焦ってしまう。

完全に第三者の視点に立って二人を見つめていると、視界が突然マスターの心配そうな表情のドアップで埋め尽くされた。



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bkm

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