ただでさえ奇妙な状況の中にいるのに更に「気まずい沈黙」という要素を加えるのは、きっと精神面的によろしくない。
そう思った私は、頭の片隅で気になっていたことを聞いてみることにした。


「樹さん、お仕事は無事終わったんですか?」


遡ること十数分前。
樹さんが私に声を掛けてくれたときには既に、パソコンや傍に置かれていた資料は片付けられていた。
ということは終わったか中断したかのどちらかなのだろう。

そんな推測と共に投げかけた問いに、小さく頷いた樹さん。


「良かった。お疲れ様です!」


これでもし終わっていなかったら自分のせいだろうと考えていたので、ばれないように下を向きながらほっと安堵の息を漏らした。
そんな私を見てか否か、樹さんは少し宙を見上げた後に口を開く。


「……夕飯、何か食いたい物あるか」
「夜ごはん、ですか?」


何故いきなりそんな話になった! と考えずにはいられなかったが、そう言われてみれば確かに何となくお腹が空いてきたような。
一旦そこに意識がいってしまうと、どんどんその感覚がはっきりと主張してくる。

昨日は寝落ちたせいで食べ損ねてしまったため樹さんの言う夕食がどんな物なのか今一つ予想出来ないのだが、今までの流れから考えるに肉じゃがとかオムライスとかそういう普通のメニューなのだろう。

(食べたい物かぁ)

ぱっと言われるとなかなか思い付かない。


「おまかせします、って言ったら困りますか……?」


暫く逡巡した結果、結局決められなかった。
折角聞いてくださったのになと思うほどに湧いてくるのは樹さんへの申し訳なさ。

せめて手伝いくらいはしなければ、と気合を入れる。


「いや別に。ねぇならなんか適当に作る」
「すみません、お願いします! 何か私に手伝えることはありますか?」
「そう、だな。じゃあこの皿を――」



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