読書に集中していると陽が暮れるのはあっという間で、樹さんに声を掛けられてはっと顔を上げると、部屋を照らす光は窓から射し込む物ではなく人工の照明に代わっていた。


「えっと……すみません、勝手にお借りした上に読みふけっちゃって」


手の届く距離にいる樹さんを見て、もしかしたら私が気付くまでに何度も呼んでくださっていたのかもしれないと気付く。

昨日今日と共に過ごして感じたのだが、彼は必要以上に私に近付かない……ように思う。
気のせいかもしれないが、どちらにせよ謝らなければと軽く頭を下げた。


「いや、部屋にある本は好きに読めばいい」
「え、いいんですか?」
「ああ、別に減るもんじゃねぇし。これ挟んどけよ」
「有難うございます!」


早速、貸してもらったしおりを挟んだ。
実は樹さん宅にある本棚は一つではなく、リビングにもう一つと寝室にも置かれている。
学術書や洋書は私には読めないが、小説だけでも充分な蔵書量だ。

(99日もあれば、沢山読めそう!)

本は嫌いではないし、素直に嬉しかった。
喜ぶ私を見た樹さんは、「ああ」と小さく返事をしてキッチンへと向かう。


「お前も何か飲むか?」
「あ、じゃあコーヒーとかってありますか?」


よいしょと立ち上がってカウンターからキッチンの中を覗き込むと、樹さんはどこか苦い表情を浮かべていた。
オレンジジュースがあったということは基本的な飲み物は揃っているのかなと思ってそう答えたのだが、何かまずかっただろうか。


「えっと、なんでも大丈夫ですよ?」
「……悪い」


物凄く申し訳なさそうに謝った樹さんに驚きながら慌てて首を振った。


「えっ、なんで樹さんが謝るんですか!?」
「いや、確かにコーヒーくらい置いておくべきだった」
「あ、無いんですね……じゃなくて、そんなに落ち込まないでください! と、とりあえずほら、オレンジジュース飲みましょう!?」


動揺しつつキッチンへ走った私は、二人分のオレンジジュースをコップに注いで片方を樹さんに差し出した。
受け取ってくれたのを確認して、自分もコップを傾ける。

――キッチンで並んで立ちながらオレンジジュースを飲むという構図に、若干頭を抱えながら。



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bkm

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