「よし、片付いた!」


両手を思い切り上に伸ばして、固まった身体をほぐす。
改めて見回すが、正直同じ部屋だとは思えない。
元々の姿はこうだったんだなと少し申し訳ない気持ちを抱えつつ、リビングへ。


「樹さん、終わりました」
「……そうか」


昼間と同じように本を読んでいるかと思っていたのだが、ソファに座っている樹さんの膝の上にはノートパソコンと思しき物が置かれていた。
集中しているのか、視線は画面に向けられたまま。

そのまま立っているのも手持ち無沙汰だし何より興味が湧いたので、ソファの後ろ側に回り込む。


「お仕事ですか?」
「ああ」


リズムよくキーを叩きながら答えるその姿は、如何にも事務方といった印象を受ける。
画面に表示されているのは良く分からない数字や文字の羅列。


「…………」
「あ、すみません!」


やり辛そうな雰囲気を醸し出していた樹さんに気が付き、ぱっと離れてダイニングテーブルの椅子に腰かけた。

足をぶらぶらと揺らしてみたり、指でカエルを作ってみたり。
勿論それで望むほどの時間が経過するわけがなく、少し悩んだ後にそっと口を開いた。


「私が片付けしてる間、ずっとお仕事してたんですか?」
「そうだな」

「いつも家でお仕事するんですか?」
「……たまに、そういうこともある」


樹さんが作業する音だけが響く室内でぽつぽつと交わされる会話。
ぱち、と手が止まったのは一瞬で、すぐにまたリズムが刻まれていく。

(何だか忙しそう、かも)

樹さんの厚意で、寝床やご飯を提供してもらっている身なのだ。
お仕事の邪魔をするのは良くないだろう。
部屋の中をぐるりと見回して、近くにあった本棚の前に立った。

一人暮らしの家にしては割と大きめで私の背よりも高いそれを、ぐっと見上げる。


上の方は何やら難しそうな学術書。
真ん中らへんは小説。
下の方には図鑑などの大きな本。
中には外国語の本だけで埋められている段もあった。

読書や勉強が本当に好きなのだろう。
そうでなくてはこんなに立派な本棚を置かないし、難しい学術書を買うこともないはずだ。


家で仕事をして、本を読んで、勉強をして。
最初にあったときから真面目そうな人だとは思っていたが、改めてその認識を強めた。

(昨日の説明の復習を兼ねて部屋を散策するのもいいけど……それは一度断りを入れてからの方がいいよね)

それに目の前をうろちょろされては、樹さんも気が散るだろう。
そう思った私は、目を惹いた小説を一冊手に取って読み始めた。



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bkm

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