昼間の騒がしさが嘘の様に静まり返った時間。
俺はこの時間が大好きだ。
勿論、昼時の忙しない感じも捨てがたいけど
真っ暗闇に飲み込まれそうな感覚になるのも、嫌いじゃない。
それに何より―――
「(…今日は明かりついてる。)」
お気に入りのバーの明かりが寂しく光るのを見れるのは、夜の特権。
半年ほど前に見つけたそのバーに、今では毎日、足繁く通っている。
カラン‥軽い金属音を鳴らして扉を開ける。
カウンターを覗いてみると、
( …いた。 )
「どうも。こんばんわ、マスター」
「……ああ。」
緋色の髪をした、寡黙な主。
俺がここを訪れる一番の目的。
「ジンライム」
注文をしたと同時に出て来たお酒に、俺は頭をかしげる。
「早くない?」
「…いつもこの時間に来るだろう」
( ――覚えてくれてたんだ、俺のこと。)
「嬉しい」
思わず口角が上がる。
「毎日飽きもせず来て、挙句必ず俺に話しかけ続ける殊勝な奴はお前くらいだからな」
「そっか、…安心した。」
「・・・?」
「ところで、」
頭にハテナを浮かべるマスターはそのままに、一口仰ぐ。
( あ。俺好みの割合。少しジン多め…マスター優しい…)
「俺のこと覚えてくれたついでに、名前も憶えてよ」
「・・・・・なぜ」
少し間を置き、マスターはむすっとした顔をしながら、俺を見る。
あー…かわいい……。
「あなたともっと仲良くなりたいから。欲を言えば――、」
頬杖をつき、マスターを見上げる。
俺を見下す瞳が真っ赤に光っていて、とてもきれいに映る。
「あなたが、休みの日はどこで何をしてるか知りたいし、俺の見てないところで何してるかも全部知りたい。」
少しの空白。
マスターがごく小さくため息を吐いた。
「………プライバシーって言葉、知っているか?」
「うん」
でもそんなものくだらないよ。
俺は、あなたのことをもっともっと知りたい―――。