焚火がパチパチと小気味良い音をさせていたと記憶していたのは、一体いつの事だったか。
とろんとした心地よさの中に漂いながら、そんなことが頭をよぎった。



今回の街は、少々警備等が窮屈だと踏んだガノンドロフが自ら魔物を従え、まんまとその街を乗っ取ったことで更に士気が高まった魔物と共に、更にもう二つ、小さ目ではあったが村を制圧した魔王勢。流石に兵士の疲れもピークに達したのを見越して、今宵は野営となった。

簡易ながらテントを張り、その中で各々英気を養う。

絶大なる力をもってして指揮を執った大魔王はといえば、その頃洞窟内で静かに一人、酒を嗜んでいた。



元々、一人を好むこの魔王が、この様に隊から離れて休むといったことは常であった。
初めの頃こそ護衛を、とのたまってきた魔物を蹴散らし、そんなものは必要無いと言ってきた意味を噛み締めた各軍の隊長達は、それ以降、魔王の傍へ寄るのをやめたのだった。(勿論、遠くにいながらも主の事を気にかけ神経を研ぎ澄ましている事を、果たして魔王たる彼の知り及ぶ所かどうかは甚だ謎である。)





ようやく、酒を味わえる…。

ここのところ、あの餓鬼に手こずってやがったからな…。と一人ごちながら、首謀者である魔王は、少しだけ入ってくる月の光を肴に見つめた。

ちびちびと朱いソレを口に含んでいたが、やがてその目はうつうつとしだし、そして、ついにその膜を下ろした。



「・・・、?」

しばらく眠りについていたガノンドロフが、その音で目を覚ました時にはすっかり辺りが暗くなってからだった。
相変わらず、暖かみを帯びた月の光は差すものの、それは微睡んだ意識の中では誠に微量たるもので、辺りの様子が分かる程の効果はもたらしてくれない。

ざり、ざり、と、砂の音をさせながら此方へゆっくりと向かってくる気配はあるものの。
ここ数日寝ていなかったのが祟り、中々意識が戻ってきてくれない。

少しばかり焦りながらも、しかし思い通りに動いてくれない身体を叱咤した結果指を数本、微かに動かすだけに留まった。



「    」

何だろう、なにか、きこえる

頭の中で、何を言っているんだ、おまえは誰だ、と様々な言葉が飛び交うものの。全くもって声にならないもどかしさと、眠さに打ち勝てない。



「、ん、む……っ、、?」

己が動けないのをいいことにか、正体不明のその人物(なのかどうかすら分からん、とはガノンドロフの心境である)は、魔王の唇を塞いだ。


このままでは窒息死させられる、と、反撃しようとするもこれまでの労の蓄積の応酬とでもいう様に身体がいうことをきかない。


「ん、っふ…、ん、む…。」

初めは触れるだけだったそれが、段々と明確な意図をもってして唇を押さえつけ、あまつさえ角度を変え襲撃してくる。
そして、己の舌と鼻腔を刺激した慣れた香りに、ワインを飲まされたのだと認識出来た。

いい加減にしろと、抵抗するために開いた唇を割って入り、僅かな歯列を掻い潜り、やがて口内に侵入してきたぬるついたソレに、びくんと身体が反応を示した。
まるで、先ほど飲ませたワインを味わうかの様にねっとりとした動きを見せるソレに、びりびりと痺れが走る。

「ッ、ふ、っ――」

これでは、

これでは、まるで、 ―――






「ふはっ……、はァ、んん」

段々と息苦しくなるのを感じ、相手の服 ―だか知らないが― を掴もうと手を伸ばそうとするも、鉛の様に重く気怠いそれをあげる事は叶わず、低く空を彷徨った腕を掴まれた、と認識出来たのは、最早いつの事だったか覚えてもいない。



「っ、んん、ぅ、ふっ、ふぁ……、り、んく」

『ッ――!?』



唐突に、ガノンドロフの身体は自由を得た。
瞬間、ずるずると、壁に身体を預けていた彼の身体がずり落ちた。

侵入して来た時とは打って変わって、どたばたと荒々しい足音をたてながら、光に向かって走っていた人物の後ろ姿に宿敵の面影を見たガノンドロフだったが、それを追いかけられる程の体力は無く、やがて再び瞼を閉じるのだった。



少ししたのち、異常を察知したのか駆けて来た隊長二人が目にしたのは、初めて見る程に穏やかな表情をさせ安穏と眠りにつく主君の姿であった。

何があったのかは分からないが、とりあえずボスの安全を確認すると胸を撫で下ろし、凭れている身体を寝かせ、毛布をかけてあげると、静かにその場を後にしたのだった。








*****

こんな更新の無いサイトに、いつもぱちぱちをありがとうございます…!
みなさんの優しさににまにましつつ、甘えている私です…。

拍手更新を、と思いつづけ、やっとでした;
超絶眠いガノたまに、リンクがストーキングしてちゅっちゅする話でした。(笑)
完全にリンクの片思いかと思いきや、実はリン→←(無自覚)ガノたま話。
無自覚惚れめっちゃ萌えるふ…。

そして補足しておきますと、リンクがガノたまに惚れているといっても、村や街が制圧されるのを黙ってみているわけがありません。ので、このリンクたまは、ガノがそれぞれを制圧したのち、野営する場所を見つけテントを張っているところを目撃し、洞窟に入っていくガノをストーキングした、という風に思っていてくださればと思います。
長い補足を失礼致しました(--;)
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