「大魔王もこんな事になっちゃうもんなんだな」
「・・・・・・・他人事だな、貴様」


ごほっ、ごほっ、と、苦しそうに咳き込みながら、ガノンドロフは己の目の前にいる顔だけはパーフェクトな男を睨んだ。

そもそも、何故貴様がこんなところにいるのだ。此処は俺の城だぞと文句を垂れれば、君の彼氏だからさととてもいい笑顔で答えられ何も言えなくなった。


「熱は…、うーんやっぱり高いね」

でこに手をあて、リンクはガノンドロフの熱を測る。

君は元々低温な方だしね、と付け足すと、何か食べた?と問うた。

「・・・いや。」
「きちんと食べなきゃ元気出ないぜ? 暖かいの、作ってきてあげるから。ちゃんと食べてくれよ?」

おまえはどこの母親だと突っ込みたかったが、何も好意を無下にすることもなかろうと、キッチンへと赴くリンクを視線で見送った。










ややも経つと、器を手にしたリンクが此方へと戻ってきた。
手元の器からは湯気が立ち、出来立てであることを窺わせる。

「はい、簡単なものだけど…。 おかゆ、食べれるよな?」
「ああ。」
「起きれる?」
「……あのな。子どもでは無いぞ、俺は。」
「子どもじゃないけど病人だろ」

リンクのじと目に反論出来る様な気も起きず(事実であるし)、ガノンドロフはゆっくりと上半身を起こした。

差し出された器を受け取る。次から次へと立ち込める湯気が鼻腔を刺激すれば、失せきっていた食欲を少しだけ呼び覚ました。


「美味しいかい?」
「・・・ん。」

はふはふと、立ち込める湯気を払いながらおかゆを口に入れ、リンクの問いに素直に頷く。

「それは良かった。…薬、とか、あるわけないよね」
「貴様…何で最初から否定なんだ」
「えっ、あるの?」
「・・・いや、無いが」
「・・・」
「・・・・」

すごく何か言いたいですという目をしたリンクと、変な沈黙が流れる。

大変いたたまれない気分になってしまったガノンドロフは、ゆっくりとリンクから視線を外した。

「まあ、無いとは思っていたけども」
「悪かったなっ」

ちっと舌打ちを零すと、ガノンドロフは布団へと身をダイブさせた。

そんなガノンドロフにリンクは全くもうと苦笑しながら、しかし彼に甘い自分も自分だなと笑った。


「じゃあ、俺はまだ仕事が残ってるから行くぜ? ちゃんと寝てるんだよー?」

窓に片足をかけた状態で顔を此方へ向けたリンクに、ガノンドロフは無言で片手を振った。













「ガノンー?」
「貴様、また来たのか」
「大事なヒトが病気だってのに、仕事になんて集中出来ないよ」
「っ、そう、か」

頬を、違う意味でほの赤く染めたガノンドロフにかわいいなあと思いつつ
リンクは、持参していた紙袋をがさごそと漁った。

「何だそれは?」
「薬だよ、薬。 君は自力で治すとか言いそうだけど、やっぱりきちんと治しておいた方がいいからね」

そう言ってリンクが取り出したのは、白い粉の入った袋だった。

それを見たガノンドロフは、顔を盛大に顰めた。

「? どうした?ガノン」
「・・・・・・・・粉薬か」
「そうだけど、それが?」

言葉を飲み込むガノンドロフに、リンクは益々首を傾げる。

まさか、粉が飲めないとか子どもじゃああるまいし。


「・・・飲めない」

ぼそっと、ガノンドロフが言葉を零す。
しかし遠慮がちに発せられたそれに、リンクは再度聞き返した。

「っ、だから、粉薬、飲めないのだ…!」
「ぅえ!? が、ガノン、薬苦手なのか?」

まさかのまさかだった。
一瞬だけ頭をよぎった理由が当たってしまったことに、リンクは心底びっくりしたという表情を浮かべる。

「仕方が無いだろうっ…、に、苦手なものは、苦手なのだ」
「ぷっ…、はははっ!」

恥ずかしいのだろう顔を真っ赤に染め、そっぽを向いてしまった恋人に、リンクは盛大に吹いた。

ガノンドロフが、悔しそうな表情でリンクを睨む。

「笑うなっ!」
「ふふっ、ごめん。きみには、俺の知らない可愛いところがまだまだ隠れてるんだって分かったよ。」
「〜〜〜っ、なっ、ん…っ、馬鹿がッ」
「かわいいなあもう」
「撫、で、る、な」


にやにやとした何ともだらしのない顔をしながら、リンクは自分より目下にいるガノンドロフを愛でた。

「ねえ、じゃあさ、」

一通り笑った後、頭にやった手はそのままにリンクは言葉を紡ぐ。

「俺が飲ませてあげるのであれば、頑張って飲めるかい?」
「おまえが、飲ませる?」
「うん。」

リンクの手がガノンドロフの手を掴んだ。

ガノンドロフは頭の上にはてなを浮かべる。

「直接、俺の此処から、君に飲ませてあげる――って、ことなんだけど」

言いながら、掴んだ彼の手を自身の唇まで移動させた。


「っ〜〜〜!」

意味を理解したガノンドロフは、途端に顔中を赤く染める。
そして目をうろうろと泳がせた後、おずおずとリンクの方向を向くことに成功した。

「やって、みる」

意を決し、リンクにそう告げると
とびきり甘く笑んだリンクに、またもや顔を赤くする羽目になってしまった。


冗談(半分本気だったけど)でも言ってみるものだと心の中で思いながら、リンクは作業に取り掛かる。

薬を水に溶かし、口に含む。
ガノンドロフの顎を優しく掴み、少しだけ上向かせると口づけを施した。


流れ込んできた苦いとも甘いともつかない複雑な味に、ガノンドロフは眉を深く寄せた。

「っ、んっ…、ふっ」

涙目になり、今にも口を放しそうな勢いのガノンドロフに苦笑しつつ
リンクは、彼の後頭部を強く固定し舌を絡めた。


「んんっ…! っむ、ぅッ…はっ…、ふぁ」

一通り口内を堪能し、ガノンドロフが嚥下したのを確認するとリンクはようやく口を放した。

はあはあと荒く息するガノンドロフの頭を撫でながら(どうやらリンクの癖らしい)、良くできたねと彼を褒めてやる。


「子ども扱いをするなと言っているだろうが…」
「そうだな。 もう粉薬も飲めたし、立派な大人だもんね?」
「っ馬鹿にしおって…」
「馬鹿になんてしていないよ。ただ君の事が、とてもかわいいだけ」

よくもまあそんなこっ恥ずかしい科白を連ねられるなと、内心呆れながら
しかし引かない己の顔の赤みに、腹立ちやらむず痒さやらを覚えた。

しかも、たまには風邪なんてものをひいてみるのも悪くはない、なんて思ってしまったのだから救いようが無い。


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