「あ、雪」

唯一の弟子である悟飯の一声で空を見上げると、ちらちらと踊り舞う白いそれ。
相変わらず冷たいその粒は、容赦無く元々低温な俺の体温を奪っていく。





「ピッコロさん、雪にはもう慣れたみたいですね」

うふふ、と笑いながら悟飯が言った。確かに初めて雪に触れた時は身体が凍ってそのまま死んじまうんじゃないか、なんて馬鹿なことを考えたが、もちろんそんなことは無く季節が一巡りするたびに、少しずつ慣れていった。

だが、この雪というものを見るたびに俺は、自分でもわからない感情に押しつぶされそうになって無性に誰かにすがりつきたくなる。ピッコロ大魔王ともあろうものがまったく地に落ちたものだ。

もちろんそんなことを知られるわけにはいかないので、「当たり前だ」といって気丈に振る舞う。なんだかその様がえらく滑稽に思えて、俺はひそかに自分を嘲笑った。


「そっか…でも僕は、いつまでたっても慣れないです。雪。地球人なのに、情けないですよね」

あ、でも半分はサイヤ人かと納得したように呟くと目線を下に落とし冷え切った手のひらにふぅと息を吹きかけた。
俺は何も言わずに、悟飯が次に口を開くのを、ただじっと待った。


「僕ね、雪ってあまり好きになれないんです。だって、すごく冷たいし…」

溶けちゃうし。そうぼそっと呟いた彼の目元は少々赤くなっており、今にも泣きそうだ。

いきなりのことでどうしようも出来なく、俺は自分の無力さを呪った。ここでいかにも師らしく、さも白々しくそっと悟飯の肩を抱いてやればいいとでも言うのか。いや、そんなの、悟飯を困らせてしまうだけではないのか。どうすればいいのか分らない。どうしてやればいいのか思いつかない。

頭が、雪のように 真っ白 だ。


「溶けちゃうとね、」

俺がどうしたらいいのか分らず悟飯を見つめていると、悩みの原因である本人が、徐に、ぽつりぽつりと言葉を紡いだ。


「何も、無くなっちゃうでしょ。空を舞ってる時はあんなに綺麗なのに、地面に落ちた途端に消えて何も残らないでしょ。それ見てるとね、分んないんだけど、すごくすごく切なくて、悲しく、なって、っ無性に泣きたく、なるんです」

今まで堪えていたのか、とうとう綺麗なその固まりが悟飯の頬を伝い落ちた。
何かにしがみつきたいのか、悟飯の小さな右手は俺の胴を迷いがちに掠っただけでそのまま地面に辿り着き、ぎゅっと強く拳を作るにとどまった。

それを見た瞬間、俺の真っ白だった頭の中に一つだけ、ぽつりと灯が燈った。
いや、その考えはあまりにも愚かで自意識過剰なだけの、俺の独り善がりであるだろうと思うのだが。

彼は、  悟飯は、俺に甘えたいのか、と。その右手は、俺にすがりたいのか。震えて頼りないその身体は、俺に温めてほしいのではないのか。


ああ なんてばかばかしいんだ。 俺は、どうかしちまったのか


だけど悟飯の小さな身体が震えるのを見るたびに、心臓が締め付けられるように痛んでこのままじゃむしろ俺の方がどうかなっちまうんじゃないかってぐらい幼いその子は、見ていて痛ましかった。


「ねえ、ピッコロさんは…、ピッコロさんは、いなくならないよね? 僕の元からいなくならないですよね?」

固めた拳を更にきつく結び、とうとう薄赤く変色しだした右手を庇う様に俺の左手を重ねると、悟飯は驚いたように目を見開いた。
俺の手の中の拳が、段々と解かれていく。


「ぴ、ころ、さ」

「お前は何も考えず、年相応に甘えていろ」

「…っ、甘えても、いいの?ピッコロさんに、ぎゅってしてもらいたいって、甘えても…っいいん、ですか」

「何度も同じことを言わせるな。だいたい、ガキの分際で気をつかおうとしやがって」


少々荒々しくはあったが悟飯の頭に手をおいてやると、ますます涙をぽろぽろと零しながらやっと俺にしがみついてきた。

まったく、いちいち手のかかる弟子だ。甘えさせてやるくらい師として当然のことは俺にだってしてやれるというのに。



「ピッコロさん、ピッコロさん大好き」

寒さのせいで赤が射した頬を俺にすりつけ満足気に告げた悟飯の頭を撫でてやれば、至極嬉しそうにほほ笑んだ。










イッツ ア カオス !

うちの県では珍しく雪が降ったので、もうなんかキュンとしちゃって勢いで書いた結果がこれ。当初私が書きたいと思っていた場面なんて全く出てきてなくてなんかショック←
でも、私にしては珍しくちょっと甘めというか、師弟っぽいのが書けて満足v こう、師弟以上恋人未満みたいな(は)

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