「…何をしている?」
「ふふっ、あったかぁい」
精神と時の部屋から出てきた時は、ほんとにこれがあの甘ったれた悟飯かと我が目を疑った。本当によくここまで成長したと感心したものだったが、まだまだ育ち盛りの子どもであることに変わりは無いらしい。
俺のマントに頬ずりしながら満面の笑みを浮かべる様は、歳相応かそれよりも多少幼く見える。
「貴様もまだまだ子どもだな」
「ピッコロさんの前では、いつまでも子どもでいたいんですっ」
気のせいだろうか、少しばかり拗ねたように見える悟飯の表情。一瞬むくれた様に見えたがすぐに笑顔に戻ったので機嫌を窺うことは叶わなかった。
…こいつの悪い癖だ。嫌なことがあってもすぐに我慢してしまう。言いたい事は言えるタチではあるが、しかし、それでも自分を抑え込んでしまう事に変わりはない。
せめて、俺にだけは言って欲しい…なんて、心の片隅で考えてしまう自分をごまかしながら悟飯を見つめた。
「ねぇピッコロさん」
悟飯の声が、俺の名を紡ぐ。
俺はそれが、とても心地いいと思ってしまう。
「なんだ」
短い返事をし、次の言葉を待つ。
「僕ね、寒いのは苦手ですけれど…」
言いながら、俺の左手をぎゅっと取り、
「ピッコロさんに温めてもらえるなら、一年中冬でも嬉しいくらいです!」
そのまま、何とも嬉しそうに自分の頬に、俺の手を当てた。
俺は、何故かざわざわ、ざわざわ、五月蠅くなった自身の鼓動に邪魔されてか、
「……そう、か」
ただ、一言。
途切れたような短返事しか出来なかった。
だが悟飯はそんなことお構いなしといった感じで引き続き俺の左手の甲に、少しばかり紅の射した頬を擦りつけている。
俺は、自分でも無意識のうちに、悟飯の冷え切った頬に吸い寄せられるように自身の指で柔らかく撫で触れた。
「ふふっ、ピッコロさん大好きです」
悟飯の髪に落ちた雪が、静かに溶けた。
(まぁ、たまにはこんなのも悪くない。)