皆寝静まり、辺りは真っ暗闇。悟飯はなるべく気が漏れないようにしつつ、師の元へと急いでいた。

 これといって急ぐ用事というのはないのだが、想い人への次から次へと溢れ出てくる気持ちをどうすることも出来ず来てしまったわけである。…というのも、この日はその感情に押しつぶされてしまうのではないかというくらいに、その感情を預けている器が、今にも割れそうだったからなのかもしれない。
 心臓は太鼓にでもなってしまったのではと疑いたくなる程にどくどくと激しい脈を打ち、それはいよいよ脳にまで影響を及ぼした。頭がきんきんと煩い音を立て、耳鳴りまでする始末。なんとも耳障りでならない。


 神殿につくと、トンッと軽い音をさせて地に足をつける。気を集中させてみると、デンデとポポの気は微かで、今は休んでいるのだと察しがついた。さて、愛しのあの人は…。

 足音と自身の気の出具合に気を配りながら、師の部屋の前で足を止め一呼吸置くと、珍しくノックをすることなくその神聖な場所に足を踏み入れた。(珍しく、といってもノックをせずに入るのは初めてだったので、的確な表現では無いのだが。)
 一歩足を踏み入れベッドに目をやれば、白いシーツが山を作っており、ピッコロがそこにいるのだと分かった。その隣に自分が潜り込めたら。そして少々低温な彼の、素晴らしく滑らかな肌を愛しむように愛でることが出来たら…。
 そんな思いに焦がれていると、今までピクリともしなかった山が突然もぞもぞと動き出し、シーツがするりとピッコロの肌を滑り落ちる。その動きはスローモーションでも見ているかのようで、同時にピッコロさんの肌を堪能しているのが何故自分では無くシーツなのかと、つくづく馬鹿らしい考えすら浮かんできたそんな時。



「悟飯?」

 自分の名を呼ばれ、思わず肩がピクリと反応した。
さすがピッコロさんだ。こんなに気を抑えているのに、こうも簡単に気付かれてしまうなんて。それとも、学者生活で感覚が鈍ったか…?などと思いながら、悟飯は師のいるベッドまで足を進め、さも自然な行為であるかのようにピッコロの太ももに手を置くというオプションつきで、失礼しますと言いながらピッコロの横を陣取った。しかし、ピッコロはその手をどけることなく、悟飯と目を合わせる。悟飯はそれが嬉しくてたまらず、思わず今まで抑えていた気が、多少漏れてしまった。
 目は悟飯と合わせたそのままに、ピッコロは自分の素直な疑問を告げる。


「一体どうしたんだ、こんな時間に」

「起こしてしまってごめんなさい。今すぐ僕の家に来てほしいんです。」

 ピッコロの質問には触れず、自分の目をまっすぐ見つめ、どこか神妙な面持ちで口を開く愛弟子はいつもとどこか違っていて、思わず分ったと了承してしまった。
 すみません、ありがとうございます。と顔を綻ばせた悟飯はいつもの様子に戻っており、ピッコロは、先程感じた違和感は俺の杞憂だったのか。そう感じた。


 「分かった。ちょっと待っていろ」と告げ、温もりを失いかけているベッドから身を起こす。それと同時に離れた悟飯の手の温もりを少し寂しく思ったが、そんなくだらない感情はさっさと切り捨てた。
 地に足をつけ喉を潤したあと、白くゆったりとした寝間着を脱ぎ、いつもの魔族服に着替える。(着替えるといっても、指の先から衣服を出したようなものだが)
 いつもと違う師の装い、もとい非常に布地の薄い寝間着では、年頃な自分にはきついものがあった悟飯にとって、着替えた胴着はある意味助け舟だったといえよう。



 適度な距離を保ちながら悟飯の後ろにつき、彼の後を何も言わずついていく。今、彼が一体何を思っているのかまったくもって予想がつかない。言葉には言い表すことの出来ない妙な緊張感が、ピッコロには確かにあった。神殿を出てから今まで、普段は結構なおしゃべりである彼が一言も言葉を発すること無く、ただひたすらそこへ向かう彼の背中に、黙ってついてきてください。と語りかけられた気がして、ピッコロは何も言わずに押し黙る悟飯の背中を見つめた。
 そして悟飯は目的地につくと荒々しくドアを開け、足早に自身の寝室へと向かった。


「さあ教えろ悟飯。ここまで黙ってついてきてやったんだ。そろそろ目的を聞かせてもらいたいな」

 相変わらず背中しか見せない悟飯を怪訝そうに見やり、ピッコロは口を開いた。別に自分が話たかったわけではないのだが、普段はぺちゃくちゃと煩い弟子がこんなにもシーンと黙っているのは、気分が悪いというか、どうにも居心地が悪かった。


「ピッコロさん」

「なんだ…っ!?」

 その感触に気付いたのは、やっとのこと見れた悟飯の顔がとても懐かしく思えた瞬間であった。
 突然の彼の行為に唖然とし、身体が硬直してしまったように動けなかった。こんなことは初めてで、とんでもない敵が現れた時に感じる恐怖感とは全く別の理由で、身体が麻痺でも起こしたようだ。
 気づけば後ろにはいつの間にか悟飯のベッドがあり、それに足が当たると、あっさりと白いまっさらなシーツと柔らかな感触に、背中を預けることになってしまった。
 はっとした時にはもうすでに遅かったようで、可愛らしい小鳥の囀りのような動きだったのが夢のように、今度は確かな感触を残し、この感触を絶対に忘れるなと言うように唇を押し付けてくる。…一体奴は何がしたいというのか。ナメック星人であるピッコロには、まったくもって理解の範疇を超えた行為だった。


「っ、や、めろ…、悟飯!」

 さすがに焦りを感じ、悟飯の肩を、多少力を込めて押し返す。むっとしたような悟飯の表情の意図は、ピッコロにはどうしてもわからなかった。
そしてその表情よろしく、まさに気分を害されたとでも言いたげに、悟飯は「なんですか」とピッコロの事の心髄を探った。
 普段は見せなかった悟飯の一面に気後れながらも、ピッコロは負けじと言い返す。


「貴様は一体、何をどうしたいんだ」

 少し息があがってしまっており、いつもの気迫こそ無かったが、それでも一般人からすれば思わずすみませんと謝ってしまいたくなるほど険しい表情のピッコロを見つめ、またも押し黙ってしまった悟飯に、いよいよもって大丈夫かと問いかけたくなった。
漆黒の瞳を見つめていると今にも吸い込まれそうな気がしてならない。それでもその闇は優しく、且つ自分を捉えて離してくれない。
(俺はいつもそうだ。悟飯のこの目を見ていると、どうしても抗えなくなってしまう…。)



 「悟飯…?」不安に駆られ、とうとう彼の名を呼んでみる。名前を呼ばれた彼の目は、いつも優しげに「なんですか、ピッコロさん」と問いかけてくれるのに、今日はそんな問いかけもまったく聞こえてこない。…初めてだ、こんなこと。どうしたらいいのか分らない。ピッコロの頭は、すでに完全に悟飯に支配されていた。



「どうって…。明日まで僕の家族はいません。僕一人だけです。で、貴方は僕の想い人。こんな時間に、そんな貴方と二人きり…。僕が何を求めているか、分っているんでしょう?」

 一瞬、悟飯が何を言っているのか分らなかった。目的も何も聞かされていないのに、そんなこと分るわけないじゃないか。俺は魔術は使えるが、エスパーじゃないんだぞ。そう反論したかったが、喉はからからで思うように声が出せず、まるで蛇に睨まれた蛙のような心境に陥った。
 呆気にとられていると、何やら両腕にずしっと重い違和感−−。一体何事かと左右を見てみれば、そこには自分の腕を強く握り、押し付けている悟飯の腕を確認することが出来た。


「悟、飯?一体なに…」

「またまたぁ…分ってるくせに。愛し合う二人がベッドの上ですることといえば、決まっているでしょう?」

 嫌だなあ、ピッコロさん。などと苦笑する悟飯が今、己に一体何を言ったのか到底理解できず、ピッコロは彼を凝視する他なかった。

「愛し……なんだと?お前は、何を言っている…?」

「愛し合ってる、って、言ったんです。僕」

 何度も言わせないでくださいよ、と、笑っておどける悟飯の瞳は、とても冗談なんかに思えなくて。自分は今この状況を、どういう方向にもっていけば正しいのか。考えなくたって分ることだ。今こいつは、認めたくはない。無いのだが、『性的』な方向に持っていこうとしているらしい。俺はその考えが間違っているのだと、諭してやらねばならない。そう結論付けたピッコロだったが、初めて感じる弟子への底知れぬ恐怖に、ただじっと身体を震わせるだけしか出来ずにいた。


「ああ、可愛そうに…身体が震えているじゃないですか。すぐに僕で温めてあげますからね」

 にこっとほほ笑む悟飯の顔は、もはや悟飯では無い赤の他人のように思える。
悟飯の左膝が、体重をかけた彼の重さでベッドに沈み、ますますピッコロの腕に負担がかかった。

「待て―――!」

 焦り、暴れだしたピッコロを楽しげに見つめ、ああ、やっと…やっと僕のものになるんですね、ピッコロさん…!と、感嘆の声をあげた悟飯の目には、もはやピッコロは映っていなかった。











ERO直前で挫折…。もともとはどーでもいいERO書くつもりだったのにいつの間にかこんなに長く…(笑)
続く、のか?これ…^^;

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -